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【書評・要約】アジアの資本主義のカタチとは?アジアの未来予測に必読の書「アジア資本主義」。

ここ20年のアジアの経済発展は、目を瞠るものであることは疑いようもありません。

アジアはいかにして急速に経済発展できたか、そして今後も成長を続けて行くことができるのか。

この問いを考えるにあたり考慮すべき重要なポイントが、アジアの独特な経済イデオロギーです。

東南アジアの経済イデオロギーは、ベトナムの社会主義(的資本主義)や、シンガポールの一党独裁的資本主義、インドネシアやタイなどの財閥経済など、資本主義を基調としながらも、個性の強い様々な国から成立しています。

このアジアの経済イデオロギーを理解するのに非常に有益な経済書が、「アジア資本主義 危機から浮上する新しい経済」です。

著者の小平龍四郎氏は、日本経済新聞編集委員で、経済・金融に関する多くの著書を発表されています。

本記事では、「アジア資本主義 危機から浮上する新しい経済」において解き明かす「東南アジア資本主義の姿」について概要を解説したいと思います。

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アジア的資本主義とは

「2050年までに中国が世界一の経済大国になることは疑いようがない。2位の米国につ次いで東南アジアとインドが追いかけ、日本は5番目。」

これは本書で紹介されている、シンガポールの著名ベンチャーキャピタリストであるフィニアン・タン氏の発言です。中国、東南アジア、インドが次の数十年における経済の主役になる見込みが大きいです。

では、今後影響力の大きくなるアジアの経済イデオロギーはどのようなものでしょうか。

現在、世界を席巻する経済イデオロギーである資本主義の主役は、「ファンド資本主義」及び「デジタル資本主義」です。

「ファンド資本主義」とは、米英を中心とする金融資本主義の到達点であり、個人主義的、株主の短期的利益の極大化を目指すものです。

ファンドは、特定の目的のために資金を調達し、圧倒的な資本の力で価値を高めてリターンを出資者に返還する手法です。

ファンド資本主義には賛否両論ありますが、アジアの脅威的な発展にはファンド力が働いていたことは否定できません。

また、もう一つの「デジタル資本主義」は、価値の源泉が工場などの有形固定資産ではなく、情報やデータなどの無形資産である資本主義のカタチです。

この米英型「ファンド資本主義」や「デジタル資本主義」に対する「アジア資本主義」には、4つの特徴があります。

1.受容性
2.折衷性
3.競争性
4.拡張性

上記の特徴を備えた「アジア資本主義」が、今後アングロサクソン型市場原理主義の金融資本主義の対抗軸になると本書では主張されています。

1.受容性

まず1点目は、受容性。市場原理を受け入れる柔軟性です。

アジアの包容力は、従来の市場原理を受け入れています。

ファンド資本主義をうまく利用して、急速に経済成長を続けています。

それどころか、アジアでは「カエル跳び」により、いくつかの技術フェーズを飛び越して、最新のテクノロジーを実装しつつあります。

この、新しいものを受け入れる開放性こそが、アジア資本主義の第一の特色となります。

本書の例では、シンガポールの政府系ファンドである、テマセクホールディングが紹介されています。テマセクホールディングは10年間の平均利回りは9%と高い水準で安定した成績を上げています。

シンガポールの国際金融センターとしての強みを利用し、ヒト、情報、カネのネットワークを利用して成果を挙げています。

2.折衷性

2つ目が、折衷性。自国の伝統・文化と折り合いをつけることができる特性です。

東南アジア経済の特徴は、同族経営による「身内資本主義」。

この伝統的な経済文化に、物言う株主「アクティビスト」などが跋扈する株主資本主義を取り入れる試みが進行しているといいます。

3.競争性

3つ目は、競争性。各国が個性を主張、競争し、お互いに影響し合っています。

この多様性がアジア資本主義に勢いを与え、マネーをひきつけます。

近年では「サステナビリティ」をテーマに、各国がグローバルマネーの呼び込みを競い合っていることが紹介されています。

シンガポールでも国際金融センターから、「フィンテックとサステナビリティの看板にかけなおそうとしており、様々な施策、インセンティブを発表しています。

4.拡張性

最後が、拡張性。アジアに広がる多様性は強みとなります。

特に本書で紙面を割いているのが、中国と英国の関係です。英国は中国の描く「一帯一路」の終着駅を目指しており、その経済的な繋がりは年々強くなっています。

すでに中国との最大貿易圏は東南アジアを超えてEUとなっており、「中国-ASEAN-EU」の「ユーラシア経済圏」が米国を中心とする経済圏を抜いて世界最大の経済ブロックになると、本書では予想されています。

さいごに

近年、所得の格差が拡大が深刻な社会問題となり、欧米型の金融資本主義に疑問を持つ人が増えています。

金融資本主義はおそらく持続可能ではなく、なんらかの改善が必要です。

そのひとつとして、市場原理を補正する「アジア資本主義」は有力な選択肢かもしれません。アジア資本主義は、米英型金融資本主義の完全否定ではなく「受容性」を生かして市場原理の良い面を取り入れることができます。

一方、今後は1つの経済イデオロギーに収斂するのではなく、様々なカタチの●●主義が乱立する多様性の時代になるのかもしれません。

アジア資本主義 危機から浮上する新しい経済」は、2020年6月に出版されているため、コロナの影響も盛り込まれており、ポストコロナの東南アジア経済を見通す上で非常に考えさせられる内容となっています。

各国の事情や具体的な政策に踏み込んだ読み応えのあるものとなっています。東南アジアでのビジネスを考えている方、東南アジアに駐在する方には必読の書です。

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