【海外子会社管理】コンプライアンス対策の効果を測定する方法。

コンプライアンスの重要性が叫ばれている最近では、eラーニングの受講を義務付けたりホットラインを設置したりなど、コンプライアンス対策プログラムを実施することは、どの企業でも当然行っていることと思います。

ところが、どれだけの企業がコンプライアンス対策の効果を把握し、有効性あるプログラムを提供できているでしょうか。

コンプラインスに関連するe-ラーニングの受講を義務付けているだけだったり、行動指針を配るだけだったりの企業も少なくありません。

そこで本記事では、ハーバードビジネスレビューにおいて上梓された論文「社員の不正防止には「回帰分析」が有効である」を元に、コンプライアンス対策の効果を測定する手法について紹介したいと思います。

本論文の著者は米司法省コンプライアンス専任担当であるホイ・チェン氏と、ハーバード大学のユージーン准教授です。

コンプライアンスの中心とも言える米国司法省のコンプライアンス担当者の論文であるため、非常に説得力のあるものとなっています。

関連記事

海外子会社を管理するにあたって、どのような不正が起こり得るのかを理解することが重要です。 なぜなら、その不正に対して必要十分な内部統制制度を構築するなど、効果的な対策を取ることができるためです。 海外子会社に最低限必要な内部統制については[…]

 

コンプライアンス対策の問題

内部統制制度の導入や社会的責任の重要性が増していることもあいまって、コンプライアンス対策制度を設けることは企業にとって必須となっています。

ところが、本当の意味で有効なコンプライアンス対策を行えている企業はどれだけあるのでしょうか。

本論文によると、アメリカ司法省もこの点に懸念をもっていました。

多くの企業が行っているコンプライアンス対策プログラムが「中身のない見せかけのものを生み出している」のではないかと。

そこで2015年に、論文の著者であるチェン氏に対して「企業各社のコンプライアンスの浸透努力が実際どの程度有効かについての評価」を依頼しました。

チェン氏は調査を始めるやいなや、コンプライアンス対策プログラムに多くの問題があることに気づきました。

ほとんどの企業が、多くの方針や手続をまとめ、自社の財務システムにおける統制手段の数を数えることで企業コンプライアンスを有効であると評価していたのです。

また、コンプライアンスコンサルティング会社であるデロイト・アンド・コンプライアンス・ウィークでは、以下のように報告しています。

「貴社は研修の質と効果を同評価していますか」という質問に対して、研修の修了率を測定して、十分な数の従業員(たとえば90%とか95%)が研修を最後まで受講していれば「効果があった」とみなす、というのが最も一般的な対応である。

上記の対応では、研修の質や効果については何ひとつ反映できていません。受講者はコンプライアンスに関する知識を得ることはできたかもしれませんが、それを実行してはじめて企業のコンプライアンスは遵守されるのは当然です。

このように、研修の修了率を効果測定の基準とする企業心理は、規制当局にたいして「コンプライアンス対策を実施した」と言うためだけだと著者はいいます。

また、コンプライアンス対策の有効性を適正に評価できていない場合、企業の財務にも影響を与えます。

つまり、コンプライアンス対策の効果を適切に評価していないことが原因で、コンプライアンス担当者の増員やソフトウェア、研修プログラムの導入など、コンプライアンスコストが無駄に増加してしまうからです。

コンプライアンス対策の有効性に関する過ち

本論文では、コンプライアンス対策プログラムの有効性に対して、以下のような過ちをおかしやすいことを指摘しています。

1.指標が不完全

有効性の指標が間違っているケースです。

たとえば、絶対値での評価は有効性を正しく表しません。つまり、コンプライアンス違反者が5人いた場合、10人中の5人なのか、1000人中の5人なのかでその有効性は大きく異なります。

当然のことではありますが、評価指標が不完全ということは評価にあたってよく間違いやすい落とし穴です。

2.価値のない指標

そもそも有効性評価において価値を持たない指標を使っているケースです。

たとえば、前述の研修の修了率は典型例です。研修の修了率はプログラムの効果を測定できません。

プログラムを研修した後にどれだけスキルを身につけたか、従業員の行動が変化したかについて測定しなければならないです。

3.有効性と法的効果のとりちがい

法的に手当をすることでコンプライアンス対策自体が有効であると考えてしまうケースです。

たとえば、会社の方針や行動指針を読んだあとに従業員による文書への署名を求める場合があります。

このような署名は、コンプラ違反をした従業員を解雇する法定期な根拠にはなりますが、従業員が方針を遵守したことを有効に担保するものではありません。

4.有効性に関する報告者のゆがみ

有効性に関する評価が自主申告の場合などに発生します。

たとえば、役職の高い人や不正行為に手を染めている人々は、調査結果に参加しないことや、虚偽の回答を行う場合があります。

そのため、測定値の解釈にあたっては、回収されたデータに歪みがないかを十分に検討する必要があります。

コンプライアンス対策の評価モデル

では、どのような分析手法によれば、コンプライアンス対策プログラムの有効性を適切に評価できるでしょうか。

本論文によれば、それは「回帰分析モデル」であるといいます。

回帰分析モデルとは、1つの変数(目的変数)とそれに対する1つの(または複数の)変数(説明変数)に関する多数のデータから、相関性を見出す手法です。

つまり、コンプライス対策プログラムを目的別に分解して、プログラムの中の各要素が、どれだけプログラム受講者の行動変化に寄与したかを分析します。

なお、コンプライアンス対策プログラムの目的は、大きく分けて以下の3つがあり、プログラムの各公正要素がそのうちのいずれかに該当するかを把握します。

・不正行為を防ぐ
・不正行為を検知する
・企業の方針を法律や規則、既成に一致させる

回帰分析の結果、提供プログラムとその後の従業員の行動など具体的なアクションの間に何らかの相関関係が見られれば、プログラムは有効であると評価できます。

一方、回帰分析により相関関係が見いだせなければ、そのコンプライアンス対策プログラムの効果があまり期待できないことが予想されます。

さいごに

プログラム有効性に関する評価モデルを構築するには、専門的知識と経験が必要です。

ただし、今後さらなるテクノロジーの発達により従業員の行動に関する多くのデータをとることができるようになることは間違いありません。

このようなビックデータを生かして、有効性の高いコンプライアンス対策プログラムを構築することが企業の防御力を高め、また想定外の不正などのコンプライアンス違反に足を引っ張られることを防ぐことができるのではないでしょうか。

興味がある方はぜひ、論文の方も一読されることをおすすめします。

最新情報をチェックしよう!