自動車は20世紀初頭に大衆化してから100年の栄華を謳歌し、2010年代からウーバーを始めとするライドシェアモデルが初めての脅威となりました。
ところが、次の10年の間に、そのライドシェア・モデルも淘汰され、まずは自動運転車が、その次に空飛ぶ車が、そしてハイパーループなど全く新しい移動手段が一般的になると予想されます。
これはつまり、自動車を個人が保有するというビジネスモデルが100年続いたにもかかわらず、次の10年ではビジネスモデルは3度変化するということ。
この自動車産業の近い未来が「2030年 すべてが「加速」する世界に備えよ」で紹介された一例です。
「2030年 すべてが「加速」する世界に備えよ」の著者は、テクノロジーの先端を走るイーロン・マスクの盟友ピーター・ディアマンディスとスティーブン・コトラー。
ピーター・ディアマンディスは未来を創造する大学であるシンギュラリティ大学の創立者でテクノロジーや宇宙ビジネスにおいて数々の会社を設立しており、近未来の予測をするには最もふさわしい人であるといえます。
ここ10年の技術進歩は目をみはるものがありました。特に、スマホ・ウェブが急速に進化し、コミュニケーションやビジネスのやり方が大きく変わったと感じます。
では、次の10年はどのようなものになるのでしょうか。
次の10年がどのようなものになるのかを知ることは、今後のライフスタイルやキャリアを考えるにあたり不可欠なものです。
本書は450ページの大著ですが、本記事では、「世界の進化が加速」する理由、大企業及び個人の生存戦略を中心にレビューしたいと思います。
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2030年までに世界の進化がさらに加速する3つの理由
本書における主張は、
これからの10年がこれまでにも増して加速度的に変化する
ということ。
その理由は3つあるといいます。
2.テクノロジー同士のコンバージェンス
3.7つの推進力の存在
それぞれ簡単に解説したいと思います。
1.コンピューティング能力の成長
これまでもコンピューターの能力は加速度的に成長してきたのですが、今後は全く異なるアーキテクチャーである量子コンピューターの登場で、さらなるエクスポネンシャルな成長が確実です。
2.テクノロジー同士のコンバージェンス
2010年の後半あたりから、つい数年前までは絶対的なポジションにいた伝統的大企業がベンチャー企業や新しいテクノロジーにとって苦しめられ、場合によっては市場から退場を強いられるケースが出てきています。
2030年に向けて、この進化はさらに加速していきます。本書によれば、それは「融合(コンバージェンス)」のため。
2010年代は散発的に進化してきたテクノロジーが、2020年代には一気に「融合(コンバージェンス)」しはじめることで、劇的なブレークスルーと世界を一変させるような変革の連続になります。
3.7つの推進力の存在
上記のコンピューティング能力向上、コンバージェンスに加えて、2020年代には世界を加速させる「7つの推進力」が存在するといいます。
①時間の節約
テクノロジーの進化により作業を効率化することができるようになり、生産性が高まっています。そのため、イノベーターが実験し、失敗し、そして最終的に成功するために使える時間が増えています。
②潤沢な資金
イノベーションには、資金が必要です。この点、テクノロジーの発達で様々な資金調達の方法が誕生しています。たとえば、クラウド・ファンディングやICO(新規仮想通貨公開)です。アイデアをイノベーションに変えていく資金を手に入れる機会が以前にもまして利用可能となっています。
③非収益化
収益の獲得から免除されている研究機関等でしか利用できないようなツールが、誰にでも使えるようになりつつあります。
④天才の発掘
世界がつながったことにより、従来は世に発見されることのなかったような「天才」が発掘されるチャンスが増えています。
⑤潤沢なコミュニケーション
イノベーションは、別のアイデア同士の交流により生まれます。2020年時点ではすでに世界中の人と簡単にコミュニケーションをすることできるようになり、イノベーションが生まれるチャンスが増えています。
⑥ 寿命の長期化
イノベーションを起こすような天才が長く生きることができれば、より世界は進化します。エクスポネンシャルな世界の進化により、寿命も長期化することが予想されています。
⑦ 新たなビジネスモデル
有名なイノベーション理論「イノベーションのジレンマ」を唱えたクレイトン・クリステンセン教授は、ビジネスモデルについて、次のように説明しています。
ほとんどの組織は成長のカギは新しいテクノロジーや製品を開発することだと考えている。だがそれは誤りだ。新たな成長の波に乗るためには、企業はこのようなイノベーションを破壊的な新たなビジネスモデルの中に埋め込む必要がある。
テクノロジーの発達により、従来では難しかった様々なビジネスモデルが登場しています。
本書では、2020年代に影響を与えそうなビジネスモデルとして、次の7つを紹介しています。
ビジネス・モデル | 代表的な会社例 | モデルの解説 |
---|---|---|
クラウド・エコノミー | エアービー&ビー | 客室1室も持たない世界最大のホテルチェーン |
フリー&データエコノミー | サービスを無料で提供し、集めた顧客データで儲ける | |
スマートネス・エコノミー | AIテック企業 | 従来の製品・サービスにAIのレイヤーを加える。自動車→自動運転車など |
閉ループ・エコノミー | プラスチックバンク | 完全リサイクルのビジネスエコシステム |
分散型自立組織 | 自動運転タクシー会社 | 自動運転タクシー会社(スマートコントラクトを組み込んだ自動運転タクシーであれば、従業員も上司も不要で年中無休で操業。メンテナンスも、自動で修理工場に向かう) |
多重世界モデル | セカンドライフ | 現実世界とは別の経済圏。仮想現実 |
トランスフォーメーション・エコノミー | クロスフィットネス会社 | 経験にお金を払い、経験を通じて人生を変える。自己変革経済 |
コンピューティングパワーが更に発達し、様々なテクノロジーが融合し、そしてそれを支える7つの推進力がある。この状況下では、加速度的に世界が進化しないわけがなさそうですね。
それでは、2020年代において、企業及び個人はどのように対処すべきでしょうか。
「2030年 加速する世界」において、大企業は生き残れるか?
エクスポネンシャル・テクノロジーの進化は、あらゆる産業が影響を受け、新しいビジネスモデルやテクノロジーの適用を余儀なくされます。
テクノロジーの進化、融合についていけない企業や個人は大変な時代になることが予想されます。
本書では、衝撃的な予想データが紹介されています。
それは、イェール大学のリチャード・フォスター教授が発表したもので「米国フォーチュン500の40%が、聞いたことのないようなベンチャーにとって変わられ、10年以内に消滅する」との予測です。
大企業は、たとえ新しいテクノロジーの脅威を理解していたとしても、既存事業の収益を維持するために、自社のビジネスと競合するような新しいテクノロジーに移行することは非常に困難です。
何万人もの従業員の生活がかかっており、社内からも抵抗に合ってしまうからですね。
一方で、社内の抵抗に対処して、うまくエクスポネンシャル・テクノロジーを取り入れることができた企業は、ますます成長していくのではないでしょうか。
「2030年 加速する世界」において、個人は生き残れるか?
大企業の苦戦が予想される一方で、挑戦する個人については、
起業家、イノベーター、リーダーそして機敏さと冒険心を持ち合わせたあらゆる人にとって、途方も無い機会が待ち受けている
とポジティブにとらえています。
融合の結果として新たなエクスポネンシャル・テクノロジーが生まれるたびに、2000年代におけるインターネットのような巨大な市場が出現するといいます。
そのため、未来のテクノロジーを理解し、機敏に適応することができる個人にはチャンスの時代といえそうです。
2030年、キャリアで生き残るためには?
様々なメディアが、「ロボットやAIが雇用を奪う」とセンセーショナルに脅してきます。またコンサルティング会社も、「技術的失業は不可避である」とのレポートを発表しています。
しかし実際は、世界中で人手不足の状況が続いています。
本書ではこの点、「自動化をしても人間がいなければ生産性は高まらない」という観点で説明します。
人手を減らしてAIを導入しても、生産性の向上は一時的なものとなり、本当に生産性が高まるのは「人間を機会に置き換えたときではなく、人間が機械の性能を引き出したとき」となることが証明されています。
また2020年代はAIが発達し、インターフェースがユーザーフレンドリーになることでよりテクノロジーが使いやすくなるといいます。
たしかに、ウェブサービスの構築やブログサービスについても、昔はある程度プログラミングを知らないと難しかったのが、最近では簡単に利用することができるようになっています。
このような状況の中、本書では「労働者に再教育すべきスキルもも変化する」といいます。
多くの仕事において、なにかに徹底的に習熟することより、技術を使いこなす能力や機敏差のほうが重要になります。
エクスポネンシャルな世界では、「機敏さが安定性を上回る価値を持つ」ため、継続的に学び続け未知の領域を切り開いていく必要があります。
世の中にあるテクノロジーを理解し、そのテクノロジーによって何が可能なのかを継続的に勉強し、ときには他人とコラボレーションしながら自分も進化していくことが必要となります。
さいごに
本記事では、世界が加速化する理由と個人のキャリア戦略を中心にレビューしてみました。
本書「2030年 すべてが「加速」する世界に備えよ」は、各産業の未来が詳細に予測されており、SF小説のようでワクワクする内容になっています。
紹介されているアイデアを以下に頭出ししておきたいと思います。興味ある方はぜひ一読することで、次の10年に対して準備することができること間違いなしです。
5章 買い物の未来 |
3Dプリンター ショッピングモールからVRゴーグルでの買い物 |
6章 広告の未来 |
ソーシャルメディアマーケティング市場の消滅 AIにより個々人にカスタマイズされた買い物 |
7章 エンターテインメントの未来 |
没入、パーソナライズ、複数シナリオ映画 スクリーンの非物質化 |
8章 教育の未来 |
画一的教育の終焉 アンドロイド教師、VRの活用 |
9章 医療の未来 |
モバイルヘルス AIバーチャルドクター |
10章 寿命延長の未来 | 寿命脱出速度が老化速度を越える(科学によって、1年生きる間に寿命が1年伸びるようになる。およそ12年先 |
11章 保険・金融・不動産の未来 |
保険・金融・不動産の未来:いくつかの保険カテゴリーがそっくり消えようとしている。 クラウドシュアランスが伝統的な医療保険、生命保険のカテゴリーに置き換わろうとしている。 |
12章 食料の未来 | バイオテックとアグリテックの融合 |
公認会計士協会(ISCA)、シンガポール工科大学のリークアンユー・イノベーションセンター(LKYCIC)及びEYアドバイザリーにより、「会計・ファイナンス業務へのテクノロジーの影響」に関する調査報告書が公表されました。 会計・ファイ[…]