海外子会社で不正を防止・発見する方法をお伝えするシリーズ。
前回に引き続き、当記事でも棚卸資産を取り上げます。
今回から、海外子会社管理における不正防止策について、具体的に解説したいと思います。 初回は、棚卸資産の不正を発見する代表的な手法の1つである「回転期間分析」。 棚卸資産とは、企業が販売する目的で保有する商品、製品、仕掛品及び原材料をいいま[…]
棚卸資産とは、企業賀販売する目的で保有する商品、製品、仕掛品及び原材料をいい、換金可能性が高いため、不正の対象となりやすい資産です。
今回は、棚卸資産の不正発見方法のひとつである「実地棚卸」。
実地棚卸とは、その名のとおり、資産を棚卸しすること、つまり実際にカウントすることをいいます。
実地棚卸は、現物が実際にあることを確認するため不正の発見には最も効果的な方法ですが、単に数えればいいということではなく、実務上奥深い様々な論点があります。
棚卸の方法についてみていきましょう。
棚卸資産の実地棚卸方法
実地棚卸の方法は、実施のタイミング及び棚卸方法の観点から次の種類に分けられます。
棚卸方法の観点:タグ方式 または リスト方式
一斉棚卸と循環棚卸
一斉棚卸とは、一定時点において、全ての棚卸資産を一斉に棚卸しする方法です。
循環棚卸とは、棚卸資産をグループ分けして、一定期間内に順次棚卸する方法です。
一斉棚卸と循環棚卸には、それぞれ次のメリットとデメリットがあります。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
一斉棚卸 | 一時点における正確な在庫数量を確定できる |
・工場・倉庫の入出庫・製造ラインを停止させる必要がある ・人員が必要となる |
循環棚卸 |
・工場や倉庫のオペレーション停止を緩和できる ・人員を分担して実施できる |
・事前に適切に計画をしないと、精度の低い棚卸となる ・棚卸対象外の在庫を操作することで不正の余地を残しやすい |
通常は一斉棚卸の方法が取られますが、以下のような状況にある場合は循環棚卸が採用されます。
・製造や出荷を止めることができない
タグ方式とリスト方式
棚卸方法の観点から、棚卸しはタグ方式とリスト方式に分けられます。
タグ方式とは、在庫が保管されている棚に「タグ(または棚札)」と呼ばれる伝票を貼付する方法です。
棚卸の実施時にカウント担当者は、このタグに品目・個数を記入し、全ての棚卸が終了した段階で回収し、タグに記載された個数を集計することで在庫数量を確定します
リスト方式とは、在庫管理システムから出力されたリストを元に現物の資産をカウントしていく方法です。
リスト方式の採用は、棚卸資産の情報が、在庫管理システムに適時にアップデートされリアルタイムで出力できることが条件となります。
タグ方式とリスト方式のメリットとデメリットは以下のとおりです。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
タグ方式 | タグを在庫保管棚に添付していくため、棚卸漏れがわかりやすい | タグの連番管理や回収、確認が必要で時間がかかる |
リスト方式 |
既にリスト上に情報がある資産を確認していく作業であり、時間を短縮できる |
システムに入力されていない資産を見落とすおそれがあり、カウント漏れが生じやすい |
実地棚卸による不正の発見手法
実地棚卸で不正を発見するためにまず必要なことは、「不正がないかを疑う懐疑心」です。
ただ単純に在庫の数を数えているだけでは、なかなか不正までは見つかりません。
なにか不正があるのではないか、不正が起きてしまう余地があるのではないかと考えながら棚卸を計画し、実施することが不正の検出に不可欠です。
その上で、実地棚卸における不正の発見手法は「差異」に注目することです。
実地棚卸の差異分析
システムが示す「あるはずの数量」と実際に数えた数が異なる場合、そこに不正の可能性があるのは当然ですが、実際にそこに不正があるかどうかまで踏み込んで検証されることは多くありません。
システムの数量と棚卸した数量が異なる場合、2つの可能性があります。
会計システムの記録が誤っている
会計システムの在庫数量が誤っている場合は、実際のカウント数量と差異が出ます。
よくあるケースは、入荷(仕入)または出荷(売上)のタイミングで、間違った数量を入力してしまうケースです。
意図的に在庫数量を操作することも考えられます。
例えば、売上のときに払い出し在庫を少なく入力すれば、売上原価の金額が低くなるため利益を大きくすることができます。
在庫システムの構築においては、以下の点が重要となります。
・在庫数値を任意に操作できない内部統制を構築すること
カウント数量が誤っている
会計システムと棚卸数量に差異がでる理由の2つ目は、カウントした数量が誤っている場合です。
この場合、再度棚卸資産をカウントしなおし、カウントした数量が正しいか確認する必要があります。それでも差異が解消しない場合は、盗難や紛失の可能性が高くなります。
実地棚卸はある一定時点に行なわれるので、その時点において、誰が持っていったか、いつなくなったかを特定することはほぼ不可能です。
ただし、将来的にこのような不正が起きることを防ぐ体制を構築するきっかけとなります。
例えば、簡単な方法は倉庫に鍵をかけることや入退室管理を徹底することなどです。
実地棚卸の効果的な方法
不正の発見という観点から実地棚卸を効果的に行なう方法について紹介します。
抜き打ちで実施
不正がある場合、隠蔽行為を伴いますが、その時間的猶予を与えないために予告無しで抜き打ちで実施することが有効です。
これは、盗難による不正を発見する手段に有効な方法です。
決算期末日の付近に行なう
通常は決算期末日直近で実地棚卸を行いますが、会社のオペレーションの都合で、期末日から離れた日に実施することもあります。
この場合、棚卸で数量が確定した日から、会計報告の基準日となる決算期末日の間に帳簿上の在庫を操作する余地が生じてしまいます。
そのため、会計不正を排除する観点からは決算期末日直近に実地棚卸を行なうことが有効です。
サンプルチェックを行なう
実地棚卸の終了直後に、会社の上席者または外部第三者によるサンプルチェックが有効です。会計監査が必要な会社の場合は、監査人によるサンプルチェックは必須手続きといえます。
実地棚卸後の検証を入念におこなう
実地棚卸には、かなりの時間と人員を動員する必要があります。そのため、カウントが終わって在庫数量が確定すると、そこで満足して終わってしまうケースが結構多いです。
ところが実地棚卸においては、会計システムと実地棚卸数量の差異分析を通じて、会社の在庫管理体制、不正の兆候の有無について検討することが重要となります。
以下の方法で分析し、その結果を記録として残した上でマネジメントが検討することが有用です。
・差異のある品目やロケーションで特徴はないか検討する
・会計システムのでーたを利用して品目別の粗利率や回転期間を分析する
その他の実地棚卸の効果
数量の確定や不正への対応という観点以外でも実地棚卸は非常に有効です。
例えば、実地棚卸を通じて滞留在庫の確認をすることで、陳腐化や品質低下している棚卸資産を把握できます。食品であれば賞味期限切れの商品の確認し、適時に廃棄しなければなりません。
また、工場や倉庫内の全体像を確認することでオペレーションの効率化に有効な情報を収集できます。
さいごに
会社の棚卸資産を適切に管理するためには、最低でも年1回の実地棚卸が必要です。
そして、棚卸の実施にあたっては、正確な在庫数量の把握、不正の兆候の検出及びオペレーションへの有用な情報の収集の観点から事前の十分な計画と事後の十分な分析が欠かせません。