テクノロジーの発達により、不正テック(フラウドテック・Fraud tech)という分野が成長してきています。
今回はシンガポールにおける不正テックを紹介したいと思います。
不正テック(Fraudtech)とは?
Fraudtechは、不正を意味する「フラウド(Fraud)」とテックの造語であり、AIや生体認証(biometrics)などのテクノロジーの力で、金融犯罪や会計不正を検知しようとする技術分野をいいます。
ある報告書によると、2018年度で278億USDであったクレジットカード不正による世界の損失は、2025年度には440億USDまで上ると予想されます。
また、2020年1月に行われたFico surveyという調査会社の報告では、APAC地域の銀行のうち不正による損失の増加傾向にあると回答した銀行は80%にのぼっており、今後1年内で大きく増加すると回答した割合は22%にのぼります。
このように、オープンバンキング、デジタルバンキングが広がることで、金融サービスはますます利用しやすくなっている反面、金融犯罪や不正も増加しており、有効な不正テックの登場が待たれます。
英国のソフトウェア会社FINASTRAが、シンガポール、米国、英国、ドイツ、UAE における750のグローバル金融機関に対し、オープン・バンキングに対して実施した調査結果報告書が公表されました。 FINASTRA FINASTRA[…]
不正テックにおけるAIの利用
AIや機械学習(machine learning)、生体認証などを金融犯罪や不正に利用しようとするスタートアップ企業が増えています。
公認不正検査士協会が2019年に公表した調査によると、不正の発見のためにAIや機械学習を利用する企業は13%程度でしたが、今後2年以内に導入を検討している企業は25%という結果でした。同様に、26%が不正への防御手段として生体認証を利用しているとの結果もあります。
今後ますます多くの企業が不正テックを導入していくことが予想されます。
シンガポールの不正テック・スタートアップ企業
東南アジアにおける不正テックの中心は、いまのところシンガポールとなっています。金融ハブという国の特性、クリーンなビジネス環境の整備による多国籍企業の誘致が国家戦略となっているため、不正テックへの需要が大きいというのが大きな理由でしょう。
その中で注目の不正テック企業を3社紹介したいと思います。
Advance.ai
2015年に設立されたAdvance.aiは、AIを利用して不正リスクを低減し、業務効率性を向上させるデジタルサービスを提供。例えばOCR(光学的文字認識)や顔認証技術によるID検証サービスなどを提供しています。
主な顧客はシンガポール、インド、ベトナム、インドネシア、フィリピンのフィンテック、銀行、小売業などで、300社以上のクライントを有するとのこと。
2019年には80百万USDを調達しており、かなり有望な不正テック・スタートアップです。
Shield
AIを利用して、不正をリアルタイムで防ぐ技術を提供するのはShield。こちらもシンガポール初の不正テック企業です。
Shieldは20078年に設立された会社であり、同社による100%自動で不正を検知する技術を提供する会社であるとのこと。既に50億以上のデバイスに登録されており、5億人のユーザを有します。E−コマース、旅行、小売やゲーム業界で導入されています。
Group-IB
最後に紹介するシンガポール不正テック企業はGroup-IB。ファウンダー兼CEOはロシア人であり、マネジメントは多国籍から構成されているのもシンガポールらしいところです。
Group-IBはサイバー攻撃、オンライン不正を検知して防止するソリューションを提供するスタートアップ企業。2020年には、シンガポール政府のサイバーセキュリティ担当から資金を調達し、シンガポール国家のサイバ―セキュリティのソリューションを開発しています。
さいごに
AI技術の発達により、不正テックが今後ますます盛り上がることは間違いないと思われます。
会計監査などもまだかなり人海戦術で紙とデータを突き合わせるという原始的な方法によっているところが大きいですが、より効率的な監査の実施のためには、単純作業を自動化するような不正テックの導入が待たれます。
どの企業がデファクト・スタンダード(業界標準)を取るか、注目していきたいところです。