経済のグローバル化が急速に進むに伴い、国際間取引を利用した税金逃れが問題となっています。
経済開発分野における国際機関であるOECDはこの問題を
と名付け、行動計画、ガイドラインの策定進めています。
各国政府の税務機関はOECDガイドラインに従って種々の税制を施行しており、たとえば近年話題の移転価格税制は、このBEPSの流れを受けて世界中で導入が進んでいるものです。
相互協議(MAP)に関するOECD調査レポート
10月22日、OECDはBEPS行動計画No.14「相互協議」に関して、8カ国の評価レポートを公表しました。シンガポールがその1カ国に選ばれています。
相互協議は、Mutual Agreement Procedureの日本訳であり、MAPと呼ばれています。
納税者が租税条約の規定に適合しない課税を受け、又は受けるに至ると認められる場合において、その条約に適合しない課税を排除するため、条約締結国の税務当局間で解決を図るための協議手続。要は、国際的な二重課税を排除するために、政府機関当局同士で行われる協議。
今回のレポートは選定された8カ国に対する、140の参加国からのピア・レビュ―となっており、各国の相互協議がタイムリー、効率的、効果的かどうかについて評価するものです。
シンガポールは93カ国と租税条約を締結しており、日本においても租税条約第24条3項の規定に従い、相互協議を行なうことが可能となっています。
両締約国の権限のある当局は、この協定の解釈又は適用に関して生ずる困難又は疑義を合意によって解決するよう努める。両締約国の権限のある当局は、また、この協定に定めのない場合における二重課税を除去するため、相互に協議することができる。
シンガポール版は94ページからなる大作ですが、実務上注目すべき数値は以下です。
・結審まで25.51ヶ月かかっている
通常、各国では税務上の紛争が生じた場合のため異議申し立てを行なう制度が設けられています。
シンガポールでも、税務当局(IRAS)からの課税に異議がある場合、この制度を利用してIRASへの異議申し立て、又は裁判所へ訴訟を起こすことが認められています。
異議申し立て制度は会社と税務当局間が当事者となって進めますが、相互協議は政府の担当官同士による協議であり、そのため相互協議は課税に納得がいかない場合に取りうる最終手段といえます。
この両政府を巻き込む最終手段である相互協議の数が年間平均18件程度というのが多いか少ないかはなんともいえません。
一方、相互協議の申請から結審まで2年以上かかるというのは、なかなか長いという印象ではないでしょうか。この期間中、資料の提出など様々な対応が求められますし、納税額が長期間定まらない状況をリスクと考え、相互協議を断念して追徴税額を支払ってしまうという判断も多いと考えられます。(ただし、OECD平均は55ヶ月と報告されているので、シンガポールは早いほうですが。)
相互協議がより効率的にタイムリーに行なうようになれば、不適切な二重課税のリスクが排除され、より安心してビジネスができる環境になると思います。
今後の動向に注目ですね。
参考文献
Making Dispute Resolution More Effective- MAP Peer Review Report Singapore (Stage2)