【シンガポール・地域統括会社】機能とメリットについて解説!

シンガポールは、地理的、経済的にアジアのハブとしての役割を果たしており、地域統括拠点としてのイメージが強いのではないでしょうか。

ちなみに、地域統括会社とは、

複数の国に子会社を有する企業が、類似性のあるエリア単位で戦略の立案・事業の遂行を行うために設置する対象エリア統括の拠点

のことです。

JETROが2020年3月に公表した資料「第5回在シンガポール日系企業の地域統括機能に関するアンケート調査」において、回答企業(226社)の48%が「地域統括機能を有している」と回答しており、シンガポールの日系海外子会社の多くは、単純な販売や製造会社ではなく、アジア地域の統括機能を期待されている企業が多いことが見てとれます。

JETRO

今回は、地域統括拠点を設立するメリットと機能について検討してみたいと思います。

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地域統括会社の機能

上記の同報告書によると、シンガポールに地域統括機能を設置する目的は、以下のとおりとなっており、統括会社には様々な機能やメリットを期待することができます。

JETRO

・域内グループ企業に対してシェアードサービスを提供

・経営統制・管理を強化

・域内グループ企業を営業面で連携

・市場ニーズに即した経営を行う

・為替リスクの集中管理、資金決済の一元管理

・税制インセンティブの有効活用

主な内容をも詳しく見てみましょう。

 

 

統括会社の機能−1.地域の経営戦略・経営支援

情報収集の基本はやはり現地で足を使うことでしょう。現代では、インターネットでもかなりの情報を入手できるようになっています。ところがそのようなインターネットで公表されているような情報は以下の問題があります。

1.情報が誤っている

インターネットで公表されている情報は真偽が不明なものが多いです。政府機関などオーソリティが発表している情報であれば問題ないですが、それ以外の情報については、情報の真偽を確かめる必要があります。

2.情報が古い・あいまい

インターネット情報は、ある一定時点における公表情報であり、一般的には情報更新の頻度にも限度があるため、最新の情報を入手するのは困難です。また、情報があいまいで実際に業務に適用しようとすると判断に困るといったケースもよく起こり得るといえます。

3.実際の実務と乖離している

制度として公表されたものの、実際の実務では全く適用されていないといったことも、特にアジアの発展途上国などではよくあります。この場合は、現地にいないとその温度感は分かりづらいといえます。

統括会社の最も重要な役割は、現場の近くで正確かつ最新の情報を入手し、適切な事業戦略を適時に立案、実行することといえます。

また現地にネットワークを構築することで、インターネットや公表情報では取れないナマの情報を入手することが重要です。そうすることで、周辺国へリーチし、アジア市場を取り込む準備ができます。

近年では、M&Aの手法による海外進出も一般的ですが、有用な買収案件の情報なども現地にいたほうが比較的容易に探しやすく、また魅力的な案件に出会う確率も増すでしょう。

統括会社の機能−2. ファイナンス機能

統括会社の主要な機能の一つにファイナンス機能があります。域内の海外子会社を統括するためには、資金の流れを管理することが重要で、そのため、統括会社は金融システムが高度に発達している金融センターに設置されることが一般的です。

まさしくシンガポールは東南アジア最大の金融ハブであり、資金移動の制限もかなり緩和されているため、この条件に当てはまります。統括会社のファイナンス機能はどのようなものか、具体的に開設してみたいと思います。

統括会社のファイナンス機能−(1)資金決済

まずは統括会社のファイナンス機能として最も直感的で理解しやすいものである資金決済です。

域内に複数の子会社が存在し、様々な取引を行っている場合は、取引先との債権債務の管理が煩雑になります。

ここで、統括会社があいだに入り、各子会社間の債権債務を管理・相殺(ネッティング)することでグループ管理の効率化を高めることができます。

また、適時に債権債務を相殺(ネッティング)することができれば支払資金を圧縮することができるので、グループ全体としてのキャッシュ保有残高を減らし適正化することができるとともに、銀行での送金手数料を抑制することもできます。

統括会社のファイナンス機能−(2)為替リスクの管理

統括拠点を設置するファイナンス上のメリットとして、為替リスクのヘッジ機能が挙げられます。

たとえば、アセアンにおいて製造をベトナムで行い、タイのマーケットに販売するような取引は一般的に有りえますが、これを直接行うと、ベトナム・ドン建での製造活動、タイ・バーツ建での販売活動で、グループ全体の管理通貨が円やドル建てとすると、複数通貨の為替リスクが生じることになります。

当該取引について、統括拠点が決済会社として間に入り、三国間取引とすることが考えられます。たとえばシンガポールの銀行では、複数通貨の口座を保有することは難しくないため、ベトナム→シンガポール間の取引をベトナム・ドンで、シンガポール→タイ間の取引をバーツで決済することができます。

シンガポール統括拠点において、予め為替の変動をヘッジするような手段をとっておけば、通貨の変動リスクを回避することができます。

統括会社のファイナンス機能−(3)税負担の軽減

統括会社を利用することで、グループ全体の税負担を軽減することも可能です。

例えば、低税率国のシンガポール統括会社から、高税率国の海外子会社に貸付を行う場合、

高税率国の海外子会社は、統括会社に支払った利子を税務計算上損金算入することで課税所得を圧縮することができます。

一方で、シンガポール統括会社が受取った利息は、課税所得計算上益金に算入する必要がありますが、こちらは相対的に低い税率での課税となるので、グループ全体の税額を低減することができます。

統括会社の機能-3.経営の効率化・コスト削減

統括会社の3つ目の機能が経営の効率化とコストの削減です。

統括会社の経営効率化機能−(1)重複する業務の集約管理

会社の管理機能、たとえば人事や総務、経理や財務などですが、これらは各会社に必要不可欠な部門となります。この管理部門を統括会社に集約し、統括会社から各子会社に提供することで、グループ全体としての業務の重複を排除することができ、また習熟や規模の経済によりコストを圧縮することができます。

統括会社の経営効率化機能−(2)再投資拠点

統括拠点の資金還流方法として、出資した子会社からの配当を得ることが一般的です。シンガポールでは、原則として配当金のようなキャピタルゲインに対して非課税となるため、子会社からの利益を無税で蓄積し、域内における再投資の資金とすることができます。

ただし、日本においても2009年に外国子会社配当金不算入制度が導入されており、日本の法人所得計算上、海外からの配当額の95%は非課税となっています。

統括会社の経営効率化機能−(3)サプライチェーン効率化

製造、販売拠点に近い地域に地域統括拠点を設置することで、サプライチェーンを物理的に管理しやすいというメリットがあります。

また、統括拠点で開発した知的財産やブランドなどの無形固定資産を被統括子会社に開放し、対価としてロイヤルティを得る場合、上記の「ファイナンス機能―(3)税負担」と同様、高税率の海外子会社でロイヤルティ支払額を損金算入する一方で、統括拠点で受け取ったロイヤルティについては、比較的低い税率で課税されることでグループ全体の税額を圧縮することができます。

さいごに

今回は、地域統括会社の機能について解説しました。香港の中国化が進む中、あらためて地域統括会社について検討する企業が増えています。そこで重要なのは、自社が地域統括会社に何を求めるか、すなわち機能の設計となります。

統括拠点の候補として、シンガポールや香港の他に、アセアンではマレーシアやタイに、中国であれば上海などに設置する日本企業も増えてきており、自社のもとめる統括会社の機能に最適な国を選ぶため、各国の税務インセンティブや政治状況などをアップデートする必要が増してきているといえます。


当該情報は執筆時現在に公表されている法令・ガイドライン等を参照しています。本記事に記載された制度は、法令・条例・通達・税制の変更・改正等により、改廃が行われている可能性があります。従いまして、特定の目的利用及び専門的な判断にあたっては、会計・監査・法務・税務・労務等の専門家にご相談頂くようお願いいたします。本資料に基づいた行為(不行為)につき、一切の責任を負いません。

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