アジアで有数の最先端テクノロジー国家であるシンガポール。国家規模が小さく、天然資源も乏しいためテクノロジーと知力で勝負することが常に求められている所以でしょうか。
近年話題の人工知能(AI)関連でも、国家ぐるみで邁進しています。
今回は、シンガポールのAI戦略について、概観してみたいと思います。
シンガポールのAI戦略「National AI strategy」
2019年11月にシンガポール政府はAIテクノロジーとその利用に関する国家戦略である「National AI strategy」を発表しています。
当該計画によると、社会的、経済的影響の大きな5つの「National AI」プロジェクト、物流(logistics)、医療(healthcare)、国境警備(border security)、不動産管理(estate management)、教育(education management)から実施するというもの。
以下のロードマップに2年後(2022年)、5年後(2025年)、10年後(2030年)のテクノロジーの利用例がまとめられています。
2022 | 2025 | 2030 | |
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1. インテリジェントな物流計画 | 物流エコシステムのための信頼性の高い共通データプラットフォーム開発 | 物流計画と海運の最適化のAIアプリケーション配置 | 空路、陸路のAI配送システムの拡大 |
2. シームレスで効率的な公共サービス | 地域の問題を報告するためのチャットボット | 不動産の予防メンテナンスのためのセンサーとAIの配置 | AIを利用した生活環境の改善 |
3. 慢性疾患の予測と管理 | 網膜スキャンシステムで糖尿疾患の兆候を検知する | 心臓疾患の原因となる3H(高血糖、高血圧、高カロリー)のリスクスコア算定 | 3H(高血糖、高血圧、高カロリー)患者のためのAIを企業と共同開発 |
4. アダプティブラーニングによるパーソナライズされた教育 | 英語の自動教育システム | AI学習補助者とアダプティブラーニングシステムの配置 | アダプティブラーニングシステムの拡大及び自動教育システムの学習科目増加 |
5. 通関手続 | AIにサポートされたリスクアセスメント | 自動イミグレーションによる出入国者の通関 | − |
インテリジェントな物流計画
トラックのインテリジェントな経路探索や運送計画を通じて配送最適化のため共通データプラットフォームを構築。AI利用により、業務をプールし、自動的に割り当てることが可能となる。
さらに、港湾での貨物計画はAIアプリケーションによって最適化、2030年までに航空貨物および陸上貨物の両方の運用に拡大する予定。
シームレスで効率的な公共サービス
現状、地方自治体の問題報告は、解決に時間が係るプロセスであるため、AIの配備により毎年100万件超のケースに影響を与える可能性がある。
当該問題に対処するため、2022年にAIチャットボットが立ち上げられ、住民による問題報告の際にガイド。
2025年までには、データ収集および分析の結果、不動産のメンテナンスサイクルが最適化されるとともに、政府機関が予防的に対処。
2030年までに、より良い不動産計画のためのインサイトを得ることで、住民のニーズに合わせて施設をより適切に配置。
慢性疾患の予測と管理
2022年に、眼のAIプログラムである眼病変アナライザー(SELENA +)が展開される。これは、網膜の写真をスキャンして分析し、糖尿病性眼疾患の徴候を特定することができる。
また、AIは心臓疾患のリスク予測評価モデルの開発にも使用可能。
さらに、AIテクノロジーを使用して、臨床データ、医療画像、およびゲノムデータを分析することにより、慢性疾患の個人ごとのリスクスコアを作成でき、個人は早期の予防措置を講じることができ、医療関係者はより的を絞ったサポートが可能となる。
パーソナライズ教育
2020年には、試験的に小学校および中学校で、英語の自動マーキングシステムが開始されます。 当該システムは、短い質問回答とエッセイの評価から、学習に対する迅速なフィードバックを提供することができる。このシステムは2030年までに他の科目に拡大される。
2025年までには、アダプティブラーニング・システムとAI学習支援ツールが開始され、各学生のニーズと能力に応じて適切にサポートします。
アダプティブラーニング・システムは、機械学習を利用して、各生徒の学習教材への応答を判断し、各個人向けにカスタマイズされた学習計画を推奨する。
AI学習支援ツールは、生徒が自分の学習体験を振り返り、さらなる学習を推奨するのにも役立ちます。
通関手続
2025年に配置予定の顔及び虹彩スキャンを含む完全自動化された入国管理システムは、ローカル及び外国旅行者の両者に使用できる。
このプロセスは人為的ミスを減らし、有人カウンターで働く入国審査官は特定の入国者により綿密な調査ができるなど、より付加価値の高い仕事に集中できることになる。
このように、シンガポールのAI戦略はかなり具体的なマイルストーンを設置しています。すでに公共サービスであるIRAS(税務当局のウェブサイト)などでは、チャットボットによる質問対応などかなりの制度で機能していることを考えると、2030年までに挙げられているAIシステムは配置することができるような気がします。
世界的なAI開発競争の中、日本も負けてはいられません。