【シンガポールVS香港】アジアのライバル都市はどちらが上?に関するレポート。

シンガポールと香港は、どちらもアジアを代表する金融ハブ、ウェルスハブでありながら、それぞれ独自の特徴を持つ先進都市です。

ASEANのハブであるシンガポールに将来を期待する人もいれば、中国の玄関である香港が盤石だと考える人もいるでしょう。

コロナ禍を経て、2つの都市の力関係はどう変わったのでしょうか。

本記事では、米国に本社を置く世界最大手の事業用不動産サービス会社CBREのレポート「A Tale of Two Cities: Hong Kong SAR vs. Singapore」の比較の視点をベースに、両政府の統計や国際機関の最新データを加えて、アジアのライバル都市を以下の観点から比較します。

 

  • 基本情報(人口・GDP・税制)
  • 経済の規模
  • 地理的優位性
  • ウェルス・マネジメント拠点
  • 研究開発費の支出
  • 優秀な人材プール
  • 住宅の賃貸料
  • 国際金融センターとしての評価

シンガポールで5年間、日系企業の支援に携わってきた会計士の視点も交えてお届けします。

1.基本情報

まずは両都市の基本的なマクロ統計と税制を比較してみましょう。

項目シンガポール香港
国土面積約735km²約1,114km²
人口約604万人(2024年)約753万人(2025年)
名目GDP(2026年、IMF推計)約6,596億ドル約4,501億ドル
1人あたり名目GDP(2026年、IMF推計)約10万7,760ドル約5万9,640ドル
法人税率17%16.5%(利益200万香港ドルまでは8.25%)
個人所得税の最高税率24%16%(標準税率。所得500万香港ドルまでは15%)
消費税(GST/VAT)9%なし
キャピタルゲイン課税・相続税・贈与税なしなし

出所:人口・GDPはIMF推計等(Economy of Singapore、Economy of Hong Kong)。税率は2026年9月時点の一般的な制度。

国土面積、人口は香港のほうが大きい一方、GDPはシンガポールが香港の約1.5倍に達しています。

その結果、1人あたりGDPではシンガポールが香港のおよそ1.8倍と、大きく差がついています。

法人税率はともに17%以下で、いわゆる低税率国・地域に該当します。

個人所得税の最高税率は香港16%に対しシンガポール24%で、税率だけを見れば香港に分がありそうです。

消費税にあたるGST・VATも、香港は非課税であるのに対し、シンガポールは2024年から9%に引き上げられており、香港が大きく有利です。

一方、資産運用を考えるうえで重要なキャピタルゲイン課税、相続税、贈与税は、シンガポール、香港ともに課税されません。

どちらも国外から富を移しやすい税制となっており、これが金融ハブ・ウェルスハブとしての大きな魅力になっています。

グローバル・ミニマム課税の導入

なお、国際的に事業を展開する大企業(連結売上高7.5億ユーロ以上のグループ)に対しては、世界共通の最低法人税率15%(グローバル・ミニマム課税)が導入されています。

シンガポール、香港ともに2025年から国内での上乗せ課税制度を導入しており、大企業にとっては「法人税の低さ」だけで両都市を選ぶ時代ではなくなりつつあります。

2.経済の規模

香港の政治的緊張とコロナ対策の厳格化が重なった2021年に、シンガポールの実質GDPは香港を逆転しました。

その差はその後も広がり、2026年には名目GDPでシンガポールが香港の約1.5倍となる見込みです。

項目シンガポール香港
実質GDP成長率(2024年)+5.3%+2.6%
実質GDP成長率(2025年)+5.0%+3.5%
2026年の成長率見通し(政府)2.0〜4.0%3.5〜4.5%

出所:シンガポール貿易産業省(2026年2月)、香港政府統計処(2026年1月)、香港政府経済分析(2026年8月)

シンガポール:AIブームで「製造業の国」の強みが発揮

金融立国のイメージが強いシンガポールですが、実は製造業や卸売業が経済の大きな柱です。

2025年の成長をけん引したのも、製造業(特にAI関連の電子部品)、卸売業、金融・保険業の3つでした(シンガポール貿易産業省)。

2025年10〜12月期には前年同期比+6.9%と、2021年以来の高い伸びを記録しています。

香港:中国本土とAI需要を追い風に復調

一方の香港は、製造業の多くがすでに中国本土へ移転しており、GDPの9割以上をサービス業が占める経済です。中でも金融・保険業は最大級の産業となっています。

コロナ後は低迷が続いていましたが、2025年は3年連続のプラス成長となり、2026年上半期は前年比+5.1%と、約5年ぶりの力強い伸びを記録しました。

AI関連の電子製品の中継貿易や、後述するIPO市場の活況が追い風となり、香港政府は2026年の成長率見通しを上方修正しています。

経済の規模ではシンガポールが優勢ですが、足元の勢いでは香港も存在感を取り戻しつつある——というのが2026年時点の構図です。

3.地理的優位性

シンガポール、香港ともに、その地理的優位性を最大限に生かして発展してきました。

CBREのレポートでは、「フライト4時間以内の経済圏」という興味深い比較を行っています。

「フライト4時間以内の経済圏」で比べると、その経済規模は香港がシンガポールの約4倍となり、香港の圧勝です。中国の主要都市である北京や上海、さらに韓国のソウルなどが含まれてくるためです。

一方、シンガポールの4時間圏は東南アジアが中心です。インドのバンガロールなども入ってくるため、インドが勃興するほど、シンガポールのハブとしての重要性は高まっていきます。

東南アジアとインドの成長が、シンガポールを後押し

この構図は、ここ数年でシンガポールに有利に働いています。

  • 2025年、ASEANへの海外直接投資(FDI)は過去最高の2,440億ドルに達し、そのうち約1,510億ドルがシンガポールに流入しました。
  • シンガポールは米国に次ぐ世界2位の投資先となっています(UOBの分析を報じたw.media)。
  • インドは主要国で最も成長の速い国の一つで、IMFは2026年度の成長率を6.4%と予測しています(IMF 2026年7月)。

香港は「中国の玄関」としての役割を強化

一方の香港は、中国本土企業の海外進出の窓口としての役割を強めています。

後述するように、中国本土の上場企業が香港にも上場する「A+H上場」が急増し、香港の株式市場を押し上げています。広東省・マカオと一体で開発を進める「粤港澳大湾区(グレーターベイエリア)」構想も、香港の後背地を広げています。

東南アジア・インド・中東へと広がるシンガポール、中国経済の窓口として存在感を高める香港——地理的な強みの「方向性」は、はっきりと分かれています。

4.ウェルス・マネジメント拠点

両都市とも、世界有数のウェルス・マネジメント(富裕層向け資産運用)拠点です。

最新のデータでは、運用資産の規模はほぼ互角となっています。

項目シンガポール香港
資産運用業界の運用資産(2025年末)6.7兆シンガポールドル(約5.2兆ドル)42.2兆香港ドル(約5.4兆ドル)、前年比+20%
シングル・ファミリーオフィス数約1,650(2024年8月時点、MASの税優遇を受けた数)約3,384(2025年末、推計)

出所:シンガポールはMAS資産運用調査(Caproasia報道)、チー・ホンタット第二財務相の講演(2024年9月)。香港は香港証券先物委員会(SFC)、InvestHK

香港:スイスを抜き、世界最大の「国境を越える富」の拠点に

香港は、中国をはじめとする富裕層の資産を集め、ウェルス・マネジメント拠点としての地位を一段と高めています。

2025年の運用資産は前年比20%増の42.2兆香港ドルと過去最高を更新しました。

さらに、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の「Global Wealth Report 2026」は、香港を2025年時点で世界最大のクロスボーダー(国境を越えて預けられる)資産の拠点と位置づけています。

その額は2.9兆ドルにのぼります。長年この分野の首位だったスイスを、ついに上回ったことになります。

ファミリーオフィス資産への課税をゼロにするなどの誘致策も奏功し、シングル・ファミリーオフィスの数は2023年末から2年間で681増え、約3,384に達したと推計されています。

シンガポール:規律ある成長で存在感を維持

シンガポールも負けていません。

資産運用業界の運用資産は6.7兆シンガポールドルと、香港とほぼ同じ規模です。MASの税優遇を受けたシングル・ファミリーオフィスは、2020年の約400から2024年8月には約1,650へと、4年で約4倍に増えました。

なお、ファミリーオフィスの数は、シンガポールが「税優遇の認可を受けた数」、香港が「推計値」と数え方が異なるため、単純比較はできない点に注意が必要です。

シンガポールは税優遇の条件として、一定額以上の運用資産や現地での専門人材の雇用を求めるなど、「実体」を重視する姿勢を強めています。

5.研究開発費の支出

製造業の比率が高いシンガポールは、GDPに対する研究開発費の比率が高く、CBREのレポートでは1.9%とされています。

一方、香港はGDPの約1%にとどまり、世界銀行のデータでも2023年時点で1.10%です(Trading Economics/世界銀行)。

シンガポール:5年で370億シンガポールドルの研究投資計画

シンガポールは5年ごとに国家の研究開発計画を策定しています。

2026年4月から始まった最新の「RIE2030」では、5年間で370億シンガポールドル(GDPの約1%)を研究・イノベーションに投じます。

前回計画から約3割の増額で、半導体やAI、高齢化対策などに重点を置いています(シンガポール国立研究財団)。

企業による研究開発も活発で、民間の研究開発費は2018年の55億シンガポールドルから2023年には90億シンガポールドルへと64%増えました(Malay Mail)。

香港:研究開発では本土との連携がカギ

香港の研究開発費の比率はシンガポールに及ばないものの、隣接する深圳をはじめとする中国本土の巨大なテック産業と連携できる強みがあります。

香港は製造やテックよりも、金融・サービス都市としての性格が強い点は変わっていません。

研究開発への投資姿勢では、国を挙げて長期計画で取り組むシンガポールに分があると言えるでしょう。

6.優秀な人材プール

CBREのレポートによると、2022年の金融業界の雇用は、香港が全体の7.6%(27万人)、シンガポールが5.8%(23万人)と、金融業界に関しては香港がシンガポールを引き離しています。

一方、もう一つの高付加価値産業である専門・科学技術サービス業では、香港が全体の6.1%(21万人)に対し、シンガポールは7.4%(27万人)と逆転しています。

香港:「量」で攻める人材獲得策

コロナ禍で多くの人材が流出した香港は、2022年末から大規模な人材誘致策に乗り出しました。

代表的なのが「高度人材通行証(Top Talent Pass Scheme)」です。年収250万香港ドル以上の人や、世界の上位大学の卒業生であれば、香港での雇用先が決まっていなくても滞在ビザを取得できる制度です。

2025年末までに、各種の人材受け入れ制度を通じて26万人を超える人材が香港に移り住み、その7割は40歳未満とされています。高度人材通行証だけで12万件以上が承認されました(GlobeVisa)。

一方で、最初の承認者のうちビザを更新したのは約半数にとどまり、「定着」が課題となっています。

シンガポール:「質」で選ぶ人材政策

シンガポールは対照的に、外国人材の受け入れ基準を段階的に引き上げてきました。

就労ビザ(Employment Pass)の取得には最低月給の条件に加え、給与水準、学歴、国籍の多様性、自国民の雇用への貢献などを点数化して審査する「COMPASS」という制度が導入されています。

その一方で、月給3万シンガポールドル以上のトップ人材には、雇用主に縛られずに働ける「ONE Pass」を用意するなど、本当に欲しい人材には門戸を広く開けています。

香港は「量」で人材を呼び戻し、シンガポールは「質」を選んで受け入れる——人材政策でも、両都市の戦略ははっきりと分かれています。

7.住宅の賃貸料

CBREのレポートでは、1平方フィートあたりの住宅賃料(米ドル建て)は、香港が2019年から8%下がったのに対し、シンガポールは44%も上昇したと報告されていました。

2018年には香港のほうが82%も高かった賃料の差は、2022年には12%まで縮まっていました。

香港では、コロナによる長期の入国制限や駐在員の帰国で賃料が下がる一方、シンガポールには人と企業が集まり、賃料が急騰した——という構図です。

2025年以降は、流れが逆転

ところが、ここ1〜2年で流れは大きく変わりました。

項目シンガポール香港
2025年の民間住宅賃料の変化+1.9%+4.26%(3年連続の上昇)
足元の動き2025年10〜12月期に約1年半ぶりの下落。2026年1〜3月期は+0.4%と小幅な回復2025年12月に統計開始以来の最高値を更新。2026年上半期も+2.6%

出所:シンガポール都市再開発庁(URA)、Real Estate Asia、South China Morning Post、PRC Magazine

香港では、人材誘致策で移り住んだ人々や、中国本土からの留学生の増加が賃貸需要を押し上げ、住宅賃料は過去最高を更新しました。2026年通年では5〜8%の上昇が予想されています。

一方のシンガポールは、2023〜24年ごろまでの急騰が一服し、新築マンションの完成で供給も増えたことから、賃料の伸びは落ち着いています。

とはいえ、賃料の「水準」そのものは、どちらの都市も世界トップクラスです。駐在員や移住を考える方にとっては、どちらを選んでも住居費が大きな負担になる点は変わりません。

8.国際金融センターとしての評価

最後に、金融センターとしての総合力を、国際的なランキングと株式市場の動きから比べてみましょう。

世界の金融センターランキング:わずか1ポイント差の接戦

英国のシンクタンクZ/Yenと中国総合開発研究院が年2回発表する「国際金融センター指数(GFCI)」。2026年9月の最新版(GFCI 40)では、1位ニューヨーク、2位ロンドンに続き、香港が3位、シンガポールが4位でした。

評価点は香港756点、シンガポール755点と、わずか1点差です(Business Today)。

香港はフィンテック分野で世界1位の評価を受けており、「金融セクターの発展度」でも世界首位に立っています。

IPO市場:香港が世界一に返り咲き

株式市場で両都市の差がはっきり出ているのが、新規株式公開(IPO)です。

項目シンガポール香港
2025年のIPO調達額9件、約16億ドル(東南アジアで首位)約2,800億香港ドル(約360億ドル)、世界1位
2026年の動き1〜3月期に約9.7億ドルを調達。市場活性化策を強化1〜8月で106社が上場、約3,424億香港ドルを調達

出所:EY、Reuters(MarketScreener)、SmallCapAsia、Axis Intelligence(HKEX統計)

香港は2025年、2019年以来となるIPO調達額の世界1位に返り咲きました。

けん引役は、中国本土の上場企業が香港にも上場する「A+H上場」です。2026年もその勢いは加速しています。

シンガポール:国を挙げた株式市場の立て直し

一方、シンガポールの株式市場は長年、上場企業の少なさや取引の低迷が課題でした。

そこでシンガポール金融管理局(MAS)は2025年、国内株に投資する運用会社に資金を配分する50億シンガポールドルのプログラムを開始し、2026年度予算で65億シンガポールドルに拡大しました。

米ナスダックとの重複上場を容易にする仕組みづくりも進めています。

こうした取り組みもあり、代表的な株価指数STIは2026年2月に初めて5,000ポイントを突破し、過去最高値を更新しました(DBS)。

資金調達の「量」では香港が圧倒的、制度と安定性を武器に巻き返しを図るシンガポール——株式市場でも、両都市の個性がくっきりと表れています。

さいごに

では結局、アジアのライバル都市はどちらが上なのでしょうか。ここまでの比較を、目的別に整理してみます。

目的・観点優勢な都市理由
経済規模・1人あたりの豊かさシンガポール名目GDPは香港の約1.5倍、1人あたりGDPは約1.8倍
税負担の軽さ(個人)香港所得税の最高税率16%、消費税なし
株式市場での資金調達香港2025年のIPO調達額で世界1位
ウェルス・マネジメントほぼ互角運用資産はともに約5兆ドル規模。国境を越える富では香港が世界最大に
研究開発・イノベーションシンガポール国家計画で5年間に370億シンガポールドルを投資
中国ビジネス香港中国本土への玄関、A+H上場の拠点
東南アジア・インドビジネスシンガポールASEANへの投資の過半が集まるハブ
国際金融センターの総合評価ほぼ互角GFCIで香港3位、シンガポール4位。差はわずか1点

一時は「シンガポールの一人勝ち」とも言われましたが、コロナ後の香港は、IPO市場の復活やウェルス・マネジメントの急拡大で、確かな存在感を取り戻しています。

一方のシンガポールは、経済規模、研究開発、東南アジア・インドへの近さといった「地力」で優位を保っています。

東南アジアを中心に、インドや中東へと広がるシンガポール。それに対して、中国の玄関として膨張するアジア経済の富を集積する香港。

本記事で取り上げたデータは限られた観点からのもので、一概に優劣を判断することはできません。食事の美味しさや物価、エンターテインメントの充実度、文化の発信力なども、都市としての魅力として当然カウントされるべきです。

それでも、シンガポールと香港のどちらでキャリアを積むか、事業を展開するか、あるいはどちらの株式市場に投資するかを考えるうえで、参考になるデータは多く含まれていると思います。

今後どちらの都市が魅力を高めていくのか、シンガポールに関わる一外国人として、引き続き注目していきたいところです。

出典

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