課税所得の範囲
原則として、シンガポールで稼得(earned in)、またはシンガポールに由来する(derived from)所得が課税対象となります。
つまり、シンガポールの雇用に起因する所得は、シンガポール国国外での支払であっても課税対象となります。たとえば、日本からシンガポールに派遣された駐在員が業務時間の100%をシンガポール子会社のために従事した場合、給与の一部が日本の口座に振り込まれることがあります。
この場合、「シンガポールに由来する所得」としてシンガポールの所得税計算上含めなければなりません。
一方、国外にある不動産の賃貸収入などシンガポールに由来しない所得については、シンガポールで課税所得の対象とする必要はありません。
なお、日本の場合は、国外で稼いだ所得についても課税対象となります(全世界所得課税)。
給与所得(Employment )
原則として雇用から生じる収入は課税対象となります。詳細は以下のとおり。
給与(Salary)
会社から受け取る給与は課税所得です。
賞与・ボーナス(Bonuses)
シンガポールの課税計算上、賞与は契約賞与(Contractual)と非契約賞与(Non-Contractual)に分けられます。
契約賞与(Contractual) | 非契約賞与(Non―Contractual) |
契約賞与は雇用契約に基づいて定められたもので、労働の提供の対価であり、法的な要求がない限り支払わなければならないものである。 賞与支払の条件がある場合、条件を満たして支払いを受けた時点で課税対象となる。一方で、条件を満たす前に支払が行われた場合は、支払の時点で課税対象となる。ただし、その後条件を満たすことができずに賞与の一部を減額または返金する場合は、その年度において課税所得から控除する。 |
経営者の一存により支払や金額を決定できる賞与である。当該賞与は支払を受けた時点で課税対象となる。 |
役員報酬(Director’s Fee)
シンガポールでは、役員報酬は、その会社の居住国において発生すると考えられます。
なぜなら、会社が利益を獲得するための意思決定や活動などに関する役員としての機能は、その国において実行されると考えられるためです。そのため、役員報酬は課税対象となり、取締役会や株主総会普通決議で承認された日の属する賦課年度において課税されます。
一方、シンガポール居住ではない会社から由来する役員報酬については、例え役員会がシンガポールで実施されたとしても、シンガポールにおいて課税されることはない。また、シンガポール居住の会社からの役員報酬だったとしても、シンガポールにおいて会議に出席するだけの報酬については課税対象となりません。
(シンガポール法人から日本居住の役員に対して、役員報酬を支払う場合)
シンガポール法人から日本居住の役員に対して、役員報酬を支払う場合は、22%の源泉税をシンガポール当局に納税する必要があります。この際の源泉税率は22%となります。(→参照)。当該源泉税は、日本側で納税する際に、外国税額控除として減額することができます。
コミッション(Commission)
コミッションとは、サービスの提供の対価として受け取る金銭であり、課税対象となります。コミッションを雇用主から受け取る場合は給与所得(employment income)として、個人事業主の個人が受け取る場合は事業所得(Trade Income)として、申告する必要があります。
その他雇用から生じる報酬で課税対象となるものの例示は以下のとおりです。
・諸手当(通勤手当、食事手当など)
・メンバーシップフィーなど、福利厚生
・年金等への雇用主拠出金額
・契約の早期満了による補償としての給与支払
・雇用主により負担してもらった税金
海外年金等
海外年金基金への雇用者拠出額については、以下の条件をすべて満たす場合に非課税となります。
・従業員の母国政府によって運営、規制及び監督された社会保険制度の下、従業員が海外で働いていたとしても拠出が義務となっている。
・拠出額がシンガポールにおけるいかなる会社、恒久的施設(Permanent Establishment;PE)によって負担、損金参入されていない。
ストックオプション行使益
原則として、シンガポールにおいて付与されたストックオプションについては、その行使時に課税されます。
シンガポールにおけるストックオプション課税/日本との違いは? 参照
シンガポールで受け取った海外所得(Overseas Income)
原則として、個人がシンガポール内で受け取った海外所得については、例えシンガポールの銀行口座に支払われたとしても非課税です。ただし、以下の場合は、シンガポールの確定申告において課税対象となります。
・海外所得を、シンガポールにあるパートナーシップを通して受け取っている。
・シンガポールにおいて雇用されており、海外での就労は付随的なものである(シンガポール会社から出張を求められている、など)
・シンガポール政府を代表して海外で就職している
・シンガポールにて商業(trade)、事業(business)を実施しており、海外での活動はシンガポールにおける事業において付随的なものである。
ただし、日本とシンガポール間の租税条約において、二重課税を排除する目的のため、シンガポール国外で課税された所得について、シンガポールにおいても課税される場合は、以下の税額計算方式に従った税額控除が認められています。
・当該所得に対して国外で課された税額
・シンガポールにおける税額
いずれか小さい額を、シンガポールの税額計算上控除することができる
年金
シンガポール国内にて受け取った政府年金(Government Pensions)は、シンガポール居住者については全額非課税。
事業所得
自営業者など個人事業主は、自己の事業所得を算定して、FORM B/B1を用いて申告しなければなりません。
フリーランサー、コミッション・エージェントなどが獲得する所得についてもここに含まれます。
事業所得については、事業経費を差し引いた金額が課税対象となります。IRASの例示による事業所得は例えば以下となります。
・顧客に対して請求した金額
・サービス提供の対価として受け取った金額
・製品販売により受け取った金額
一方、控除が認められる事業費用は、収益の獲得に関して
包括的排他的(wholly and exclusively)に発生した費用
をいいます。包括的排他的とは、「その収益稼得に完全に関連した全額」、というような意味で、要は事業に関連しない費用は控除できないということ。
計算方式はシンプルで、以下の通りです。
収益(Revenue) |
▲売上原価(Cost of Goods Sold) |
売上総利益(Gross Profit) |
▲事業費用(Allowable Business Deduction) |
課税所得(Adjuted Profit/Loss) |
不動産・投資所得(Income from Property or Investments)
株式配当( Dividends)
シンガポールでは2008年1月以降、シンガポール居住会社に対して一段階課税システム(one-tier tax system)を採用しているため、個人株主レベルでの課税は行われません。
一段階課税システムとは、所得に対して一段階のみ課税するシステムで、会社レベルで法人税が課税された税引き後所得の分配である配当については、さらなる課税を行わないとする制度です。
日本においては会社レベルで法人税が課税された後、個人の配当レベルにおいても20%が源泉徴収課税される2段階課税システムをとっています。
売却益(Gain from Sales)
シンガポールにおいては資産の売却益は原則非課税(キャピタルゲイン非課税)を原則としており、そのため不動産、株式または金融商品の売却益は原則、非課税です。
ただし、不動産の売却益については、課税対象となる場合もあるため注意が必要です。
不動産売却益が課税対象となる場合
個人が、利益獲得目的で不動産を売買する場合は、トレーディング目的とみなされ課税対象となります。トレーディング目的か否かは、個々の状況により判断されます。主な判断基準は、次のとおりとなります。
・売買の頻度
・不動産の購入及び売却目的
・不動産を維持する期間のファイナンス方法
・購入から売却までの保有期間
受取利息(Interest)
シンガポールにて認可された銀行等金融期間への預金、社債等負債性金融商品等から生じた受け取り利息については、原則非課税となります。
一方、以下の場合は課税対象となります。
・認可されていない銀行預金
・会社や個人への貸し付け
・負債性金融商品がパートナーシップを通す場合、及び金融商品を事業として売買する場合
賃貸収入(Rental Income)
原則として、賃貸収入は、関連する費用を控除した金額が課税対象となります。
シンガポールでは納税者の事務管理負担を減らすため、15%の見込経費として控除することができます。
また、不動産ローンを組んでいる場合はローン利息についても控除することができます。
IRASでは、5年間分の根拠資料を保管することを求めており、もちろん、実際発生額を記録して控除することも可能です。
課税時期は、支払があった年度ではなく、支払期日である点留意が必要です。
ロイヤルティ (Royalty)
シンガポールにおいて稼得された著作権や特許、商標権などに関するロイヤルティは、請求の時期に課税対象となります。
「シンガポールにおいて稼得されたロイヤルティ」とは、シンガポールの居住者、またはシンガポールに設置された恒久的施設(permanent establishment)に対する直接的または間接的な支払をいいます。
ただし、文学、音楽などの芸術作品、または認可された知的財産及び技術革新に関するものは、ロイヤルティ総額の10%または関連する費用項目を控除した後のロイヤルティ額のいずれか小さい金額が課税対象となる。
さて、いかがでしょうか。
シンガポールの課税所得については、申告手続きをスムーズにするために、わかりやすく整理されている印象です。
ただしその範囲については、判断が難しい項目もあります。その場合は、専門家へご相談することをお勧めします。