当記事では、四半期ごとにシンガポール金融庁(MAS)から公表されるシンガポールの金融政策についてアップデートしています。
シンガポールの金融政策について
シンガポールの主な金融政策は、為替レートの調整です。通常の金融政策は政策金利を調整することで間接的に為替をコントロールしますが、シンガポールでは直接金融庁が為替レートを調整します。
これは、シンガポールが自由経済である一方、経済規模が小さいため通貨投機などで為替が乱高下指定しまうのを防ぐ意図があります。
このシンガポール金融政策上目標となる名目為替実効レートは「S$NEER」と呼ばれ、毎年4月、10月に調整されます。
具体的には為替レートの幅である「政策バンド」、上昇・下降の速度に該当する「スロープ(傾き)」、政策バンド内におけるレートの目標値「中央値」の3項目を調整することになります。
詳細は以下の記事をご参照ください。
シンガポールは他の先進国に比べて、ユニークな金融政策を採用しています。 先進国の金融規制当局、例えば米国のFRBや日本銀行の役割は、通常、①政策金利の調整、②市場への資金供給量調整(QE、QTなど)です。 一方、シンガポール金[…]
24年10月のシンガポールの為替政策
2024年10月のシンガポールの為替政策は、変更なしでした。
つまり、MASはS$NEER政策バンドの上昇率を現行のまま維持し、その幅および中心水準に変更を加えません。
2023年1月まで5回連続で金融引締めを行ったあと、23年4月より1年を超えて引き締め水準で維持されることになります。
世界経済:米国は成長安定、欧州は低調。中国は輸出県庁も、住宅市場低迷で国内消費は抑制。ASEANはエレクトロニクスサイクルの持続的上昇から恩恵。
シンガポール経済:2024年第3四半期は前年比2.1%成長、上半期の0.4%から加速。エレクトロニクス製造業が多く寄与、現代サービス業も活発化
・2025年見通し:シンガポール経済は成長率拡大予測、ただし地政学、貿易紛争激化など外部環境リスクあり。
・インフレ見通し:コアインフレの動向は第4四半期も抑制されると見られ、今後数ヶ月で前年比でさらに鈍化すると予測される。コアインフレは2024年全体で2.5~3.0%の範囲で推移、2023年の4.2%から低下する見込み。CPI総合インフレ率は2023年の4.8%に対して2024年度は約2.5%となる見通し。
24年4月のシンガポールの為替政策
2024年4月のシンガポールの為替政策は、変更なしでした。
2023年1月まで5回連続で金融引締めを行ったあと、23年4月より1年を超えて引き締め水準で維持されることになります。
シンガポール為替レートは従来の政策バンド内の上方でシンガポール高方向に推移しています。
背景として、以下の判断が挙げられています。
・堅調な世界経済:主要貿易相手国は金融引き締めで成長鈍化も、24年後半に向けて金融緩和から需要回復予測。
・シンガポール経済改善:24年中に改善し、GDP成長率1~3%見通し。世界金利の緩和あれば製造・金融セクター回復。エレクトロニクス景気の好転。
・インフレ率上昇:GST税上げ、資源価格、人件費上昇でインフレは緩やかに上昇で24年1,2月平均は3.4%。
・コアインフレ率低下見通し:24年4半期~25年にかけて顕著に低下すると予測。24年全体でコア、総合インフレ率は1.5%〜2.5%と予測。
24年1月のシンガポールの為替政策
2024年度から為替政策を見直し頻度を、従来の半期に一度から四半期ベースでことに変更しています。
そのため、前回10月から3ヶ月たった24年1月にシンガポール金融庁から為替政策の発表がありました。
2024年1月のシンガポールの為替政策は、変更なしでした。
シンガポールの直近コアインフレ率は前年比3.3%と低下しており、2024年度のコアインフレ率は、消費税(GST)1% の上昇を除いて1.5%~2.5%と予想、輸入インフレ、国内コスト圧力は抑制され、中長期的な物価安定が見込めています。
そこで、現在の為替政策、つまり、2023年4月以前に決定された政策バンド・スロープに従ってS$NEERは上昇させることが適切と判断したとのことです。
23年10月のシンガポールの為替政策
2023年10月のシンガポールの為替政策は、変更なしでした。
2023年4月も変更なしで、2半期連続の現状維持です。
なお、2022年4月までスロープをわずかに上昇させ、7月、10月では中央値ををその時点における為替レートの実勢値まで引き上げるなど、5回連続で金融引き締めを行っていました。
2023年4月以降はそれまでの水準を維持し、それまでに決定された政策バンド、スロープに従ってS$NEERは上昇しています。
シンガポールの金融政策を現状維持とする理由として以下が挙げられています。
・コアインフレ率は鈍化しており、24年には大幅に下落すると予測
・シンガポールGDP成長率は0.5%〜1.5%とシンガポール経済は軟調
・24年に経済は徐々に改善するも、世界経済の見通しが不透明
以上を踏まえると、現状のS$NEER水準は十分に引き締め的だが、輸入インフレ及び国内コスト圧力の抑制のため、政策バンドの持続的な上昇が必要であると判断しています。
さいごに
シンガポールで事業運営を行うに当たって、当局の為替政策を把握することが重要です。この金融政策によって、今後のシンガポール経済やインフレ動向を予測することもできます。
引き続き、シンガポールの金融政策についてウォッチしていきたいと思います。
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