【シンガポール法人税】法令・規制遵守費用の取り扱い。

シンガポール法人税における損金と法令・規制遵守費用の概要

事業運営を行うにあたり、法令や規制に準拠すること求められ様々な費用が発生します。

これらの法令・規制遵守費用(Statutory and regulation expenses)は、現状のシンガポール所得税法上では、課税所得の計算上、原則として損金算入できません

なぜなら、シンガポール所得税法上で損金とし認められるのは、「完全、かつ排他的に所得を獲得するために支出した金額(wholly and exclusively incurred in the production of an income)」であるという原則があるためです。

とはいうものの、企業の適切なコンプライアンスを促進するため、2014年賦課年度以降、適格な法令・規制遵守費用については損金とすることが認められます。

本記事では、シンガポール所得税法上の損金の考え方、及び「法令・規制遵守費用」の取り扱いについて解説したいと思います。

関連記事

シンガポールの会社法人税計算は、非常にシンプルです。日本ですと事業税や住民税などの影響があったり、複雑な調整項目があったりしますが、シンガポールは原則として税率17%の法人税一本であり、税務当局としてもなるべく税務申告の負荷を減らして事業[…]

「完全、かつ排他的」な支出とは

シンガポール法人税法において「完全、かつ排他的(wholly and exclusively)」という概念は、税金計算上で所得から控除できる損金を判断する上で非常に重要な概念となります。

ここで、「完全に(wholly)」、「排他的(exclusively)」では漠然としてしまうため、シンガポール所得税法で明確に定義されています。

この点、「完全に(wholly)」という言葉は、支出された金額を指します。所得を生み出すために支出された金額というような意味で、こちらはあまり議論の余地はありません。

一方、「排他的(exclusively)」とは支出の目的を指します。

支出が複数の目的で発生下場合、その費用は事業収入を生み出すために「排他的」に発生したものではありません。

例えば自宅をオフィスとして利用しており、事業目的とプライベート目的の両方を兼ねている場合などです。

費用の発生と収入の生成の間に関連性がなければならず、自宅賃料のうち、オフィス利用部分のみが「排他的な(excliusively)」費用となります。

法令・規制遵守の費用は「完全、かつ排他的」な支出ではない?

シンガポールに限らず、ほとんどの国で法律や規制に準拠するために、「法令・規制遵守費用」を負担する必要があります。

これらの「法令・規制遵守費用」は、シンガポールの所得税法における「完全、かつ排他的に所得を獲得するために支出した金額(wholly and exclusively incurred in the production of an income)」のみを所得から控除できるとする原則からすると、損金として認められない金額となります

たとえば、会計監査費用税務申告のために専門家に依頼する費用はコンプライアンスのための支出ですが、企業が所得を稼いだあとに負担するもので、「完全、かつ排他的に所得を獲得するために支出した金額」ではありません。

また、昨今重要性が増している内部統制を構築するための支出については、資本的支出ととしての性格が強く、収益の獲得には貢献していないため、シンガポール所得税法上の損金としては原則認められません。

損金算入が認められる「法令・規制遵守の費用」

上記のとおり、シンガポール所得税法の原則から、「法令・規制遵守費用」は損金算入が認められないこととなります。

ところが、企業の法令や規制のコンプライアンスレベルが高く整備されていることは、社会全体に利益をもたらすことになります。

そこで、企業のコンプライアンス活動をサポートするため、要件に合致する適格な法令・規制遵守の費用については、課税所得の算定において損金として認めることとしています。

適格な法令・規制遵守費用と認められる支出は、シンガポールで発生した費用、またはシンガポールに由来する所得、国外で発生してシンガポールで受け取った所得の生産において発生した費用であり、以下の要件を満たすものです。

  • A. シンガポール、または他国で明文化された法律にたいする法令遵守を目的とするものである
  • B. 政府や公的機関、証券取引所等によって公表された規約、基準、規則、要求など
  • C.上記のA,Bに関連して提議された法令の影響度調査に関するもの
  • D.上記のA,Bに関連する法令遵守違反を防止または発見するもの
  • E.上記のA,Bに関連する法律等で、遵守対象外でも自発的にコンプライアンス対応するもの

具体的な例としては、以下が挙げられます。

  • A. 税務申告費用、監査費用など
  • B. 証券取引所へのリスティング費用
  • C. 米国の税務コンプライアンス法(FATCA)への対応調査費用
  • D. GSTコンプライアンスの内部統制構築費用
  • E. 監査免除の企業であるが、自発的に会計監査を実施する費用

損金参入が認められない「法令・規制遵守の費用」

一方で、損金算入が認められない不適格の法令・規制遵守費用は以下のようなものがあります。

  • A. 資本的支出の性質
  • B. シンガポールや他国の法令に明文化された法律に基づく罰金、ペナルティ等
  • C. 法令遵守違反の告発に対する弁護費用
  • D. 裁判所や司法機関への上訴に関連する費用

さいごに

税法上の取り扱いは、国によって異なります。税務申告にあたっては現地国の専門家に相談して、コンプライアンスを達成することが重要となります。

シンガポールの情報については引き続き当ブログで紹介していきたいと思います。

IRAS e-Tax Guide Deduction for Statutory and Regulatory Expenses


当該情報は執筆時現在に公表されている法令・ガイドライン等を参照しています。本記事に記載された制度は、法令・条例・通達・税制の変更・改正等により、改廃が行われている可能性があります。従いまして、特定の目的利用及び専門的な判断にあたっては、会計・監査・法務・税務・労務等の専門家にご相談頂くようお願いいたします。本資料に基づいた行為(不行為)につき、一切の責任を負いません。

最新情報をチェックしよう!