国を超えてお金の支払いを行う場合、税金を納付する必要があるか検討をする必要があります。この税金のことを「源泉所得税(withholding tax)」と言います。
シンガポール国外の会社は、原則、シンガポールでの納税義務がありません。
一方、サービス提供等によりシンガポール国内を源泉とする所得が生じた場合にはシンガポールでの税負担を行うべきです。
そこで、サービスの受領者(お金を支払う者)が代わりにシンガポール税務当局に納税する仕組みとなっています。(日本を含む世界のほとんどの国でも同じ仕組みとなっています。)
シンガポール源泉所得税の「納税義務者」、「対象となる項目と税率」、「納税期限とペナルティ」については以前の記事で解説していますので、今回は「支払いが源泉所得税の納付対象となるか」について解説したいと思います。
源泉所得税の概要 国をまたいでお金の支払を行う場合に留意しなければならない税金として、源泉所得税(withholding tax)があります。 これは、シンガポール国内を源泉とする所得が生じた場合に、シンガポール法人から国外の会社等へ支払[…]
シンガポールで源泉所得税が必要かー判断のフローチャート
シンガポール会社から国外への支払いが行われたとき、シンガポールで源泉税を納付必要があるかを判断する以下のフローチャートがIRASから公表されています。
この判定フローチャートについて簡単に補足したいと思います。
①.取引相手は租税条約(DTA)締結国か
まず、取引相手国が租税条約(DTA)締結国か確認する必要があります。なお、日本とシンガポールの間では日星租税条約が締結されています。
源泉所得税は2国間で生じる課税関係ですので、各国の国内法での規定との調整が必要となります。国外に対する支払いがシンガポール源泉と考えられる場合、シンガポールで源泉徴収された上で、たとえば日本など国外でも課税対象となり、2重課税となってしまうおそれがあるからです。
そこで、租税条約を締結して2重課税の負担を排除、軽減することになります。
なお租税条約とは、二重課税の排除や軽減、脱法の防止を目的として、国家間で締結される条約で、DTA(Avoidance of Double Taxation Agreement)と略称されます。
租税条約を締結している相手国との取引の場合は、源泉所得税について特別な取り扱いがなされる可能性があるため確認が必要です。
一方、租税条約を締結していない相手国との取引の場合は、シンガポールの国内法で規定された源泉税率により源泉所得税を納付する必要があります。(図のA)
②.所得(Income)は租税条約で規定されているものか
国外への支払いが租税条約を締結している相手国との取引の場合、次に対象となる所得(Income)が租税条約で規定されているものか確認する必要があります。
配当、利子、サービス料など、租税条約では各所得について明記した上で取り扱いを定めています。明記のない所得については租税条約の内容の検討に至らず、シンガポールの国内法で規定された源泉税率により源泉所得税を納付する必要があります。(図のA)
③.所得は租税条約で規定されている事業利益(Business Profit)か
所得(Income)が租税条約で規定されているものである場合、次に所得が租税条約で規定されている事業利益(Business Profit)に該当するか確認します。
所得が事業利益(Business Profit)であるなら、各所得ごとに規定された特別な税率ではなく、会社法人税の税率を課税すべきということになるからです。
④.受取人はシンガポールで恒久的施設(PE)を通して事業を行っているか
所得が租税条約で規定する事業利益(Business Profit)に該当する場合、恒久的施設(PE)の概念を考える必要があります。
恒久的施設(PE:Permanent Establishment)とは、支店や工場など事業を行う一定の場所を指し、国によってその範囲が規定されます。
原則としてシンガポール国外の会社はシンガポールでの法人税納税義務はありませんが、シンガポール国内に工場や代理人など恒久的施設(PE)が存在する場合は、恒久的施設に帰せられる利益についてはシンガポールで課税すべきと整理されます。
この場合、シンガポール法人税率で源泉税が課税されます。(図のB)
一方、シンガポール国内に恒久的施設(PE)が存在しない場合は、源泉所得税は非課税となります。(図のC)
⑤ . 課税権は租税条約の下、租税条約相手国にのみ与えられるか
租税条約において、所得が事業利益(Business Profit)に該当せず、また関連条項もない場合は、最後に租税条約の下、「課税権が租税条約相手国のみに与えられているか」を確認します。
ここで、租税条約相手国のみに課税権が与えられている場合は、相手国において課税対象となるため、シンガポール国内での源泉所得税は非課税となります。(図のC)
一方、租税条約相手国のみに課税権が与えられていない場合は、租税条約に規定された源泉税率において、シンガポールで源泉納付されることになります。(図のD)
租税条約に規定された源泉税率を適用する場合は、取引相手国の居住国証明などを提出して、租税条約締結の申請、認可を得る必要があります。
申請フォームはIRASのHPからダウンロードすることができ、日本の税務当局の認印等を得た上でIRASに提出します。提出期限は支払時の翌年3月31日までとなります。
申請をしない場合は、国内法に定められた源泉税率が適用されます。(図のA)
源泉所得税の判断はむずかしい
源泉所得税の納付の判断には、所得の種類、租税条約の内容理解、恒久的施設の判定など専門的な判断を伴います。また、租税条約や国内法が改正されることもあります。
シンガポールと日本間の取引である場合、配当や利息など自明の所得については、図のDに従えばよいですが、判断に迷う所得である場合は、税務専門家に相談いただくことをおすすめします。
当該情報は執筆時時点に公表されている法令・ガイドライン等を参照しています。本記事に記載された制度は、弊法人作成後、法令・条例・通達・税制の変更・改正等により、改廃が行われている可能性があります。従いまして、特定の目的利用及び専門的な判断にあたっては、会計・監査・法務・税務・労務等の専門家にご相談頂くようお願いいたします。本資料に基づいた行為(不行為)につき、一切の責任を負いません。