税務申告を誤ると、追徴課税などペナルティによるキャッシュ流出や、会社の信用に傷がつくなど多くのリスクがあります。
外国で事業をする場合であっても、各国の税制に精通し、タックス・コンプライアンスには気をつける必要があります。
2021年11月にシンガポール税務当局(IRAS)が税務申告で誤りやすい項目を公表しました。
当記事にて、シンガポールの法人税申告において誤りやすいポイントについて解説したいと思います。
シンガポール税務当局(IRAS)が、シンガポールの税務調査において注意すべきポイントについて公表しました。 当記事において、シンガポールの税務調査において留意すべきポイントについて紹介したいと思います。 [sitecard s[…]
税金減免制度(Tax Exemption)の誤った適用
シンガポールは、法人税を減免する制度(Tax Exemption)があります。
執筆時現在だと、新規設立企業が利用できる「スタートアップ免税スキーム」、設立後3年以上の会社が利用できる「部分免税スキーム」などが主な法人税の減免制度となります(詳細は以下のリンクをご参照ください。)
法人税減免制度を乱用した手法としてよくあるケースは、以下のものです。
・ペーパーカンパニーが正当な商業的理由なしに、既存会社に費用を請求する。ペーパーカンパニーは、受け取った収入に対して免税スキームを適用するとともに、既存会社は当該費用を損金算入して所得を圧縮する
・取締役や株主の報酬を不当に低額とすることで会社の所得増加させて免税スキームを適用する一方で、取締役・株主の報酬は、低い個人所得税率で税額を算定する
租税回避のためにペーパーカンパニーを設立することや、個人が脱税行為に協力することは認められません。
減価償却費(Capital Allowance)の誤った減算
シンガポールでも日本と同様、減価償却費を課税所得から減算することが認められています。
そもそも、シンガポールにおける法人税の原則として「資本取引は非課税」というものがあり、資産の売却益(キャピタルゲイン)に対しては課税されません。この原則を受けて、資産から生じる費用についても、原則として損金算入は認められていません。
ただし、減税のインセンティブを与えて設備投資を促進するため、特定の資産購入についてはキャピタルアロワンス(税務上の減価償却費)の名の下、損金として算入うすることを認める制度を導入しています。
執筆時現在では、機械及び設備(Plant Macinery)やソフトウェア等についてキャピタルアロワンスが認められる一方、産業用建物や構築物(Industrial building)などは認められていません。(キャピタルアロワンス制度については以下のリンクをご参照ください。)
税務申告においては、会計上計上した減価償却費をいったん加算した上で、税務上のルールに従った計算方法で算定したキャピタルアロワンスを損金として所得から控除することになります。
この税務上の減価償却費、キャピタルアロワンスを利用した税務上の誤りとしては以下のようなものがあります。
・自社の利用しない資産についてキャピタルアロワンスを適用する・会計上の減価償却費を税務上のキャピタルアロワンスに調整しない
関係社間取引が適正な価格(Arm’s Length Price)で行われていない
取引価格は、グループ会社間でも適正な金額で行う必要があります。
なぜならグループ会社であれば利益額を調整できてしまうので、例えば低い税率の国で多額の利益を計上するように取引価額を決定して不当に税金を回避することができてしまうからです。
そのため、グループ会社間の取引でも通常の第三者と行う際の適正価格(この適正な価格を独立企業間価格(Arm’s Length Price)といいます。)で決定しなければなりません。
独立企業間価格で取引を行っていることを促すために、世界各国で「移転価格税制」を導入し、一定規模の会社にはグループ会社との取引を適正価格で行っている旨を分析した「移転価格文書」を準備することを求めています。
シンガポールでも「移転価格税制」が適用されるため、一定規模の会社でグループ間取引がある場合は移転価格文書を作成し、保管する必要があります。
また、取引価額が文書化基準を超えない場合でも、税務調査などで問い合わせを受けた際には、適正価格で取引していることを証明できなければなりません。
さいごに
当記事ではシンガポール法人税の申告において誤った適用がされやすい3つの項目について解説しました。
今回紹介した制度以外でも、シンガポール法人税は、日本の法人税とは異なった税法概念から成り立っています。
シンガポールで事業を行う際には、現地の専門家に相談することをおすすめします。
当該情報は執筆時時点に公表されている法令・ガイドライン等を参照しています。本記事に記載された制度は、弊法人作成後、法令・条例・通達・税制の変更・改正等により、改廃が行われている可能性があります。従いまして、特定の目的利用及び専門的な判断にあたっては、会計・監査・法務・税務・労務等の専門家にご相談頂くようお願いいたします。本資料に基づいた行為(不行為)につき、一切の責任を負いません。