海外で事業を行う場合に注意しなければいけないことの一つに「マネーロンダリング」があります。
マネーロンダリングとは、違法に稼得した資金を出処不明なものにして、合法資金に洗浄する行為をいいます。
マネーロンダリングはもちろん犯罪であり、自分自身が行っていなくても、知らないうちに他者のマネーロンダリングの一部を担っていたなんてこともあり得るため、海外でビジネスを行う際には、マネーロンダリングに対する知識が必須です。
当記事ではそんな「マネーロンダリング」の理解が深まるマネーロンダリング関連本を三冊紹介します。
世界中で、マネーロンダリングに対する規制が厳しくなっています。 シンガポールでもマネーロンダリングへの対応のため、会社設立や銀行口座の開設に時間が係るなど、少なからず影響が出てきています。 それでは、そもそもマネーロンダリング[…]
1.マネーロンダリング入門
「マネーロンダリング入門」は、金融・経済小説、ノンフィクションの代表的作家である橘玲氏が2006年に上梓したマネロン解説本。
主に2000年代前半に実際におきた金融事件の真相を、マネーロンダリングの視点からえぐるものですが、臨場感ある描写や事件への深い洞察により、幻冬舎新書からの出版にかかわらず小説を読んでいるような感覚です。
たとえば、以下の事件を取り扱っています。
・ライブドア事件
・日本発の大規模マネロンといわれる五菱会事件
・北朝鮮の核開発と偽ドル札製造
・バチカン銀行の死の商人と法王の暗殺
・アルカイダの米国テロ
2000年代に世界を揺るがした多くの事件が、巨大なマネーロダンリングを背景としている点に気が付きます。
マネーロンダリングは、「国家の枠」に縛られざるをえない金融規制の「国家間の規制のひずみ」と、世界経済のブラックホール(守秘義務を盾とするスイスのプライベートバンクや、神聖権を盾とするバチカン銀行など、警察権力が踏み込めない領域)を利用して行われてきました。
2020年代となった今では、BEPSなどOECD間の国際協調により、金融規制については「国家の枠」を取り払って「国家間の規制のひずみ」をなくす努力が続けられています。
また、米国テロを発端とする米国の圧力で、スイスの各プライベートバンクは完全降伏しており、ブラックホールに情報を秘匿しておくことが難しくなっています。
このようなマネーロンダリングにたいする世界的な規制強化により、この本で紹介された手口は現在ではほぼ利用不可能となっているといってもいいでしょう。
本書マネーロンダリング入門は、現代マネーロンダリングの伝統的手法、そしてマネーロンダリングを行ってしまう人間的背景を理解するのに非常に勉強になる一冊です。
2.マネーロンダリング
2冊目は、橘玲氏の小説「マネーロンダリング」。マネーロンダリング本紹介の3冊中2冊が同一著者となってしまいましたが、マネーロンダリング本は橘玲氏の著書が圧倒的ですね。
本書「マネーロンダリング」は、一冊目の「マネーロンダリング入門」とは異なり、香港と東京を舞台とした経済事件小説の形式となっています。
主人公の秋生は、以前働いていた外資系金融機関で培った知識を生かして、違法すれすれのマネーロンダリング指南を生業に、フリーランス金融コンサルタントとして香港で生活していますが、そのアウトローぶりがちょっとかっこいい。
本書では、純粋に経済推理小説としても面白いですが、フィクションの物語の中にマネーロンダリングや国際税務、国際金融の知識がちりばめられて解説されており、小説形式ということで教科書で学ぶよりもすっと頭に入ってくるものとなっています。
3.金融ダークサイド
3冊目は、猫組長による「金融ダークサイド」。
猫組長は、元山口組系組織組長で、現在は投資家・評論家です。
本著において「地下経済に住みながら、実務を行うことがマネーロンダリングを理解する唯一の方法だ。」と述べているように、実際に自らマネーロンダリングを行っていたため、その描写は微に入り細を穿つという感じです。
本書「金融ダークサイド」の前半は、日産カルロス・ゴーン事件の真相を、マネーロンダリングの観点から推測した分析しています。
後半ではバブル期における証券会社勤務からはじまり、仕手筋となり破産、その後経済ヤクザに転身した自身の自伝的内容となっています。
猫組長は、マネーロンダリング規制、ひいては世界経済の真理は「暴力」にあるとしていますが、これは米国テロに関連したマネーロンダリングの疑惑で、石油ビジネスで稼いだお金600億円を銀行ごと米国に収奪された自身の経験などからくる、普通のビジネスマンには想像もつかない達観ではないでしょうか。
こちらも橘玲氏の「マネーロンダリング入門」と同じく、多数の実際の経済事件を解説しており現代経済史におけるマネーロンダリングの理解がすすみます。
国際送金システムのSWIFT、ブロックチェーン・仮想通貨とマネロンの関係など、最先端技術の話題もあり、今後のマネーロンダリングを理解する上でも示唆に富みます。
さいごに
今回はマネーロンダリングの理解が進む本を三冊紹介しました。
マネーロンダリングについては、今後も、不正に稼得した不正資金を洗浄するというニーズはなくならないでしょうから、新しいテクノロジーを利用した新しいマネーロンダリング技術が生まれてくるのでは間違いないと思います。
知らないうちに犯罪に手を染めないよう、国際ビジネスに携わるビジネスマンはマネーロンダリングの知識をみにつけることが必須ではないでしょうか。