シンガポールの会計・財務アドバイザリー

シンガポールにおける印紙税(Stamp Duty)の概要。

シンガポールの税金のひとつに印紙税(Stamp Duty)があります。

印紙税とは

日常の経済取引伴って作成する契約書や金銭の受取書(領収書)など特定の文書に課税される税金(日本国税庁HPより)

今回は、シンガポールの印紙税について解説したいと思います。

1.シンガポールにおける印紙税の対象

日本では、幅広い文書に対して印紙税が課税されますが、シンガポールでは印紙税の課税対象は「不動産取引」及び「株式取引」に限定されます。

具体的には、以下の文書が該当します。

不動産取引

1.不動産のリース・賃貸借契約書(Lease /Tenancy Agreements)

2.不動産の譲渡契約書(Transfer documents)
3.住宅ローン契約書(Mortgatges)

株式取引

1.株式譲渡契約書(Contract or agreement)、譲渡証書(Transfer instruments for shares)

2.株式担保ローン(Mortgages)

あくまで不動産、株式に関する文書に限定されるため、たとえば以下のような文書については印紙税は課税対象外となります。

印紙税の対象とならない文書の例示

・保険契約に関する文書
・無形資産の取引に関する書類
・不動産・株式以外の債権、債務・不動産
・株式が関連しないローン
・手形、遺言 等

なお、1つの物件に対して複数の契約から成る場合、印紙税は別個に課税されます。

例えば、ある物件について売却後、売却先からリースバックを受けるような取引の場合、売却時、リースバック時の2回とも印紙税を納税する必要があります。

それぞれの印紙税について、見ていきましょう。

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2.不動産取引に係る印紙税

不動産取引に係る印紙税は、以下の5つがあります。

不動産取引に係る印紙税の種類

1.売却者に対する印紙税(Seller’s Stamp Duty: SSD)
2.購入者に対する印紙税(Buyer’s Stamp Duty:BSD)
3.加算印紙税(Additional Buyer’s Stamp Duty:ABSD)
4.住宅ローンに関する印紙税(Mortgage Duty)
5.不動産賃貸に関する印紙税(Lease Duty)

それぞれ、概要を説明したいと思います。

2-1. 売却者に対する印紙税(Seller’s Stamp Duty: SSD)

SSDは、2011年1月に導入された印紙税で、住宅・住宅用土地の売却者に課す印紙税です。住宅不動産市場における投機抑制を目的としたもので、3年以内の短期売却者に対して課税されます。

SSDは、売却または処分日における「不動産の市場価額」または「売却価額」のいずれか高い金額に対して課税されます。

不動産について部分的に売却した場合は、売却した部分ごとに売却日を認定し、印紙税の計算を行います。

SSDは、住宅用不動産(Residential Property)事業用不動産(Industrial Property)で取り扱いが異なります。

住宅用不動産(Residential Property)の印紙税率

2017年3月11日以降に取得した住宅用不動産の売却時の印紙税率は以下のとおりです。

保有期間 印紙税率
1年以内 12%
1年〜2年以内 8%
2年〜3年以内 4%
3年超 非課税

事業用不動産(Industrial Property)の印紙税率

2013年1月12日以降に取得した事業用不動産(Industrial Property)の売却時の印紙税率は以下のとおりです。

保有期間 印紙税率
1年以内 15%
1年〜2年以内 10%
2年〜3年以内 5%
3年超 非課税

2-2. 購入者に対する印紙税(Buyer’s Stamp Duty:BSD)

BSDは不動産の購入、取得に対して課税される印紙税です。

BSDは取得日における不動産の「市場価額」または「契約書に記載された購入価額」のいずれか高い金額に対して課税されます。

契約書に記載されたキャッシュ・ディスカウントがあるような場合は、ディスカウント後の金額が印紙税計算の基礎となる購入価額となります。

一方、キャッシュディスカウントではない特典(例えば家具の無料購入チケットや賃貸保証など)については、印紙税計算の基礎となる購入価額から控除することはできません。

2018年2月20日以降に取得した不動産の印紙税率は住居用とそれ以外で異なり、以下のとおりです。

購入価額
(または市場価額)
印紙税率
(住居用)
印紙税率
(それ以外)
最初の180,000SGD 1% 1%
次の180,000SGD 2% 2%
次の640,000SGD 3% 3%
残りの金額 4% 3%

2-3. 加算印紙税(Additional Buyer’s Stamp Duty:ABSD)

2011年12月より、従来から存在する上記の「購入者に対する印紙税(BSD)」に追加して、シンガポール国内の住宅用不動産取得者に対して加算される印紙税です。

シンガポール国民の不動産取得の機会を保護する目的のため、外国人への課税率は高率となっています。

2021年12月、2023年4月と段階的に税率が引き上げられています。

特に2023年4月はシンガポールの住宅市場の高騰から、印紙税料率が大幅に引き上げられ、外国人には60%、PRでも2件目は30%の税率が課税されることになりました。

これは投資目的の住宅不動産の取得を抑制する目的があると思われます。

BSDは取得日における不動産の市場価額または契約書に記載された購入価額のいずれか高い金額に対して課税されます。

購入者の属性 〜21年12月

21年12月

〜23年4月

23年4月〜
シンガポール国民(1戸目) 非課税 非課税 非課税
シンガポール国民(2戸目) 12% 17% 20%
シンガポール国民(3戸以上) 15% 25% 30%
永住権者(1戸目) 5% 5% 5%
永住権者(2戸目以上) 15% 25% 30%
外国人 20% 30% 60%
個人以外の事業体等 25% 35% 65%

2-4. 住宅ローンに関する印紙税(Mortgage Duty)

銀行、その他金融機関から不動産担保のローンを取得する場合の印紙税です。

不動産担保ローンの印紙税率は0.2%〜0.4%最大500SGDとなります。

2-5. 不動産賃貸に関する印紙税(Lease Duty)

シンガポール国内において不動産を賃貸する場合の印紙税です。

印紙税の課税は平均年間賃貸料(Average annual rent:AAR)を基礎に決定されます。

AARは、「契約上の平均年間賃料」または「市場における一般賃貸料」いずれか高い金額であり、物件賃貸料の他、メインテナンス料、サービス料、その他付随的に発生する料金も含まれます。

不動産賃貸に関する印紙税の料率は以下のとおりとなります。

平均年間賃貸料(AAR) 印紙税率
〜1000SGD 非課税
1,001SGD〜(リース期間4年以下) 賃貸料総額の0.4%
1,001SGD〜(リース期間4年超) AAR☓4倍の0.4%

 

3. 株式取引に係る印紙税

株式取引に係る印紙税については、以下の2つがあります。

株式取引に係る印紙税

1.株式取得に係る印紙税
2.株式担保ローン(Mortgages)に係る印紙税

それぞれ見ていきましょう。

3-1. 株式取得に係る印紙税

株式の取得に係る文書に署名した場合、購入価額または株式価値(Value of shares)のいずれか高い金額に対して0.2%の印紙税が課税されます。

株式価値(Value of shares)は、公開企業株式及び非公開企業株式の別で、以下の金額となります。

株式価値(Value of shares)

○公開企業株式

譲渡契約書日におけるシンガポール証券取引所の平均価格


○非公開株式

非公開株式の譲渡価額は、設立後の経過年数に応じて、純資産価額(Net asset value:NAV)または割当価額(Allotment price)が異なります。


ー設立後18か月超の会社
:直近の財務諸表(譲渡日24か月以内)を元に算定された純資産価額(NAV)


ー設立後18か月以下の会社
:割当価額(Allotment price)。ただし不動産を保有する場合は純資産価額(NAV)

3-2. 株式担保ローンに係る印紙税

株式を担保に銀行等から借り入れをする場合は、当該文書(株式担保設定契約書)に対して印紙税が課税されます。

株式担保ローンの印紙税率は0.2%〜0.4%最大SGD500となります。

4. 印紙税の納付期限

シンガポールにおける印紙税の納付期限は、以下のとおりです。

印紙税の納付期限

シンガポールで文書に署名された場合:
署名後14日以内


国外で文書に署名され、その後国内に持ち込まれた場合:
持ち込まれてから30日以内

5. 印紙税に関するペナルティ

納付期限内に印紙税を納税しない場合、以下のペナルティが課される可能性があります。

印紙税のペナルティ

納税遅延が3か月を超えない場合:
10SGDまたは印紙税額の同額いずれか大きい金額


納税遅延が3か月を超える場合:
25SGDまたは印紙税額の4倍いずれか大きい金額

ペナルティの課税通知が送付された場合は、抗告(Objection)を行い、結果を待っている間でも印紙税を支払う必要があります。当該金額は、抗告が認められた場合は還付されます。

6. デジタル文書に関する印紙税

近年では、PDFなどの電子的な媒体で契約書を作成するケースも増えています。

このようなデジタル文書に関する印紙税については、以下の記事をご参照ください。

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