【書評・レビュー】GLOBOTICS。グローバル化+ロボット化が同時に進む時代に生き残る仕事とは?

AIの進化及びグローバル化が仕事へ及ぼす影響は、誰もが気になるところではないでしょうか。

グローバル化とロボット化が同時に進行する現代において、今後どのように世界は進んでいくのか、また個人としてどのように仕事をしていくべきか、についての深い示唆を与えてくれるのが「GLOBOTICS」。

経済学博士のリチャード・ボールドウィンにより執筆され2019年に上梓された「GLOBOTICS」は、グロボティクスの影響をマクロの観点から分析し、今後の近未来を予測する大著となっています。

当記事では、グロボティクスとは何か、今後生き残る仕事はどのようなものかについて、本書に書かれている内容を紹介したいと思います。

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グロボティクスとは

グロボティクスとは、

・グローバル化

・ロボティクス

を組み合わせた著者の造語。

今後世界は、デジタル技術、機械翻訳の発達、高品質のインターネット接続による

「遠隔移民」と「ロボティックス」

の進化による影響を受け、とくに専門職・ホワイトカラー・サービス職で生計を立てている先進国の人々に影響を与えると主張します。

グロボティクスの問題

AIやグローバル化の影響についてはすでに多くの議論がなされていますが、グロボティクスの問題は「雇用の破壊」です。

この点、数年も前の時点ですでに多くの著名人懸念を表明しています。たとえば、テスラモーターズのCEOであるイーロン・マスクは、

大量失業をどうするか。これが今後、大きな社会問題になるだろう。ロボットがうまくできない仕事はどんどん減っていく。起きてほしいと思っているわけではないが、おそらくそうなるだろうと思っている

スティーブンホーキンスは、

AIの台頭で、雇用破壊は中間層の奥深くに及び、介護やクリエイティブ、管理職しか残らないだろう

とコメントしています。

また2014年ピューリサーチが1800人超の専門家にインタビューしたところ、専門家の半数が、

差し引きでブルーカラー、ホワイトカラーの大幅な雇用喪失が起き、それが大量失業や格差の大幅な拡大、社会秩序の崩壊など社会的な混乱につながる

と予想。今後従来型のホワイトカラー業務の大幅な消滅は避けられなさそうです。

雇用に関するグロボティクスの深刻な問題は、就業人数の大きいサービスセクターを破壊する点です。

サービスセクターの自動化は、医師、弁護士、ジャーナリスト、会計士など稼ぎのいい専門職にも影響します。

このような高度な専門職は、膨大な情報を頭に入れ、それを新たな状況に当てはめることですが、これはまさにAIが得意とするところ。

産業革命やIT革命以降に工場労働者などが経験してきた失業を、今後多くのホワイトカラー労働者も経験すると著者は指摘します。

グロボティクス転換の4段階

本書において、社会の変革は4つの段階で進むことが説明されます。

1.転換

2.激変

3.反動

4.解決

まず、新しい技術や思想が導入される段階が「転換」です。
まさにグローバル化、ロボティクス化が導入されはじめた時期が「転換」期になります。2000年代くらいからでしょうか。

その後、グローバル化やロボティクスが更に浸透することで、生活様式や環境が大きく変化する「激変」期を迎えます。目下「激変」期のなかにあると言えそうです。

そしてその後、この転換による新しい環境が、従来型の思考様式とあまりに異なり、不利益を被る者が続出することから、それに対する「反動」が生じます。

「反動」はいずれ解決され、最後は新しいテクノロジーの恩恵をまべんなく受けることができる「解決」期に落ち着きます。

たとえば18世紀以降の産業革命についても、従来の熟練職人が新しい産業機械にとって変わられた結果、機械打ちこわし運動である「ラッダイト運動」から20世紀のファシズム、共産主義の誕生は、「転換」の結果の「反動」といえます。

産業革命においては「反動」から「解決」期まで100年ほど必要としました。また、2度の世界大戦やファシズム、共産主義下で多くの人命が損なわれています。

今回の「ロボティクス転換」はどのような「反動」期を迎えるのでしょうか。

「ロボティクス転換」が過去の産業革命より深刻な理由は、あまりにも早いスピードで転換・激変期を迎えている点です。

著者は、「新しいテクノロジーによる雇用破壊のスピードが早く雇用創出のスピードが追いついていないという、このミスマッチが真の問題である」といいます。

たしかに世界ではトランプ大統領の誕生やブレグジット、中国共産主義の伸張など、「反動」期の萌芽が随所に見受けられるようになりました。

現状での「反動」は依然としてブルーワーカーを中心としたものですが、著者は「ポピュリズムに反対する高学歴の都市部の人も、グローバル化と自動化が我が身に迫ってくれば、態度を豹変させるだろう」と予測しています。

高学歴、ホワイトカラーのサービス業でも準備できている人はほとんどおらず、デジタル技術の衝撃は大きなものになります。

じわじわとグロボティクスが浸透し、企業は利便性、コスト削減の観点からグロボティクスを職場に一斉に導入することで専門家、ホワイトカラーの仕事が奪われると予想しています。

グロボティクス下で生き残る仕事

それでは、このグロボティクス転換下で生き残る仕事はどのようなものでしょうか。

まず、グローバル化の観点では、「顔と顔を突き合わせた交流が必要な仕事」が有望です。

その場にいることが重要な仕事」は、デジタル技術が発達してもなお重要であり遠隔移民に代替されることはありません。

また、ロボティクスの観点では、「人間の強みを活かした仕事」です。

本書によれば、AIが社会的スキルを人間のトップレベル並に習得するには50年程度かかると予測されており、未来の仕事のほとんどにおいて「人間らしさ」が重要になります。

具体的には、以下のような特性です。

・社会的知能
・感情的知能
・創造性
・革新性
・未知の状況への対処

社会的知能とは、判断力、共感、直感、人間同士の複雑なやり取りの理解などです。つまり「交渉」や「説得」など高度な社会的知能を求められるタスクです。

また、別の調査では、グロボティクス下における新しい仕事として、以下のような仕事が最大の供給源になると予測しています。

・データ・サイエンティスト
・オートメーション・スペシャリスト
・コンテンツキュレーター

これらはロボットを監視するような専門職です。

生き残りのために

AIや通信の専門家の中には、グロボティクスのプラットフォームを構築することで莫大な富をいていますが、大多数の人にとっては無関係な世界です。

AIの専門家でもない限り、目指すべきは自身の仕事の中でグロボティクスを使いこなす方法を学び、グロボティクスに代替されないことです。

そのためには「柔軟性」と「適応性」を最大発揮しなければなりません。

新しいことを素早く身につける能力です。

たとえば弁護士業務をとっても、ロボット弁護士にできなくて、人間の弁護士にできることはたくさんあり、こうした知見を実際の所得の増加に結びつけるには、特定分野の知識に関する投資をしなければならないといいます。

グロボティクス転換後に報酬が支払われるスキルは、現在のスキルとは別物になります。

人間らしさのある、心のこもった仕事を提供する。

このことがグロボティクスの世界における生き残る仕事ではないでしょうか。

さいごに

本書を読むと、グロボティクス転換はこれから「激変」、「反動」期を迎えるため、安定した仕事をすでに持っている人にとっては暗い未来を想像してしまうかもしれません。

しかし著者は、「グロボティクス時代は、人間が単純な機械的作業、反復作業から解放される、より素晴らしい世界になる」といいます。

本書「Globotics」は、自身の仕事にも間違いなく影響を与えるグロボティクスの流れを理解し、来たるべき大変革に準備するために非常に有益です。

360ページの大著ですが、AI化、グローバル化の中で新しい環境に準備し、適応
するためにも、一読することをおすすめします。

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