生産性が上がらず、利益率が高まらない状況に陥っている中小企業は少なくないのではないでしょうか。
そこには構造的な理由があり、今後、中小企業が飛躍するためには解消すべき状況であるといえます。
この点について示唆を与えてくれるのが「小さな会社が世界で稼ぐ」という本です。
著者は日本の中小企業の海外事業展開支援をコンサルタントである佐々木隆彦氏。
著者の語る「中小企業が海外で成功する」エッセンスは、年の経験から導出されたものであり非常に説得力があります。
今回は本書「小さな会社が世界で稼ぐ」で紹介されている「情報の重要性」を中心に紹介したいと思います。
海外市場で成功するためには、どの国に進出すべきか? この問いは、海外進出を目指すいかなる企業、個人にとって重要なものです。 数多ある国の中で成功できそうな国はどこかは非常に難しいですが、今回はこの難題を考えるにあたり、2015[…]
中小企業が低利益率となってしまう構造的な理由
中小企業が低利益率となってしまう構造的な理由は「スマイルカーブ」で説明することができます。
スマールカーブとは、事業のバリューチェーンと利益率の関係を図示したもので、笑顔のような曲線を描くことから名付けられました。
中小企業は、このスマイルカーブの中間地点である川中に位置することがほとんどです。
スマイルカーブの左端に位置する川上企業は、研究開発やデザインを担当するため、膨大な情報を蓄積し、研究機関との繋がりを築くことができます。
一方、右端である川下に位置する企業は、マーケティングやアフターサービスを行う業者(川下業者)は、消費者から直接情報を入手することができます。
ところが、川中に位置する企業の情報は、川上企業や川下企業から入手することになり、他社からの断片的な情報を元に事業経営をせざるを得ません。
川中に流れ込んでくる情報は改変や制限されていたりすることも少なくありません。
そのため、自社が有利になるように生産性を高めたり、利益率を高める取り組みを行うことが困難となります。
つまり、スマイルカーブの両端で豊富で正確な情報を得ることができる企業は高い利益率を享受できる一方、限られた情報しかない川中の企業は利益が薄くなってしまうということになります。
ゆでガエル症候群に陥らないために
本書では、「ゆでガエル症候群」に陥ってしまう中小企業が多いことを警鐘しています。
たとえ利益率が低い事業にとどまらざるを得なくても、大企業から常に一定水準の発注が約束されていれば、たとえ取引条件が不適切であったとしても、中小企業が自社で新規の顧客を開拓するモチベーションは低くなります。
ところが、このような受け身の事業を続けていると、その会社はオリジナリティの少ないコモディティになってしまいます。
高い付加価値利益率を維持し、会社を成長させるには「ゆでガエル」にならず、常に情報収集に努め、自社製品・サービスの高付加価値化を目指さなければなりません。
中小企業は従来、大企業からの発注に従って組み立てや加工を行う請負業者であり、大企業が内外有力顧客への対応を主に担っていました。
この分業の過程で多くの中小企業が情報流入の少ない領域に囲い込まれ、入手できる情報の量と質が貧弱になったことから生産性や利益率が低くなったと考えられます。
中小企業の利益率を改善する方法
それでは、中小企業はいかにしてこの状況を脱し、利益率を改善することができるでしょうか。
本書では、この川中領域から抜け出す方法は2つあるといいます。
2.川上から川下へシフトする
まず、「より上方に位置する別のスマイルカーブに乗り換える」ことが考えらます。つまり、より利益率の高い事業領域へのシフトを目指すものです。
たとえば製造業からITソリューション事業への移行することなどが考えらます
ただし、この方法は経営資源が限られており、別事業の知見も少ない中小企業には少しハードルが高いかもしれません。
そこで、2つ目の「川上から川下へシフトする」方法が現実的といえます。
ただしこの方法の難しいところは、従来は協業関係にあった川上、川下企業と業務がバッティングすること。
本書ではその解決策として、「既存のスマイルカーブの川上や川下企業に情報異存しなくて済むように、希少な情報が得られる別ルート(バイパス)を自ら開拓し、情報の輪に自身を押し込む」ことを提案しています。
つまり、情報源をシフトし、複数の情報アクセスルートを保有することです。
新しく切り開いた別ルートを使って、取引業者が独自情報を集めることができればサプライチェーンにおけるパワーバランスは一変します。
価値の高い情報を入手する方法
中小企業が利益率を高めていくためには「情報」が重要があるということになります。
有益な情報には以下の3要素が満たされる必要があります。
2.「正確さ」
3.「新鮮さ」
これらの要素を備えた情報を手にしたものは、有利なポジションに陣取ることができるといいます。
では、価値の高い情報はどのように入手することができるでしょうか。
まずは人脈が大事です。
本書では「人脈こそが競争力の源泉」といいます。
たとえばコンサルタントが顧客に代わって海外企業と接触する場合、個人的に培った人脈を駆使するのが普通であるといいます。
また、情報を貪欲に探求することも重要です。
情報は、それを必要とする人たちのところに集まってきます。
なぜなら、情報を求める人が躍起になってそれを集めようとするので、結果的に蓄積されていくからです。
セレンディピティという言葉があります。
セレンディピティとは、予想外の好結果をもたらしてくれるものに偶然出くわすこと。
自社に必要となる情報を貪欲に探求することで、セレンディピティの確率も高くなります。
現代はインターネットのおかげでタダで多くの情報を入手することができますが、そのような無償の情報は既に陳腐化しておりたいして役には立ちません。必要なコストをかけてでも有益な情報を入手すべきです。
中小企業が海外に進出すべき理由
稀少な情報を入手するという意味で海外進出は理想的な方法となります。
日本の川上、川下企業に情報を独占されることなく、中小企業は自社で海外のエンドユーザーと直接つながることで稀少な情報にアクセスすることができます。
現代ではIT技術等の発達により言語や距離、時間といったハードルも簡単に乗り越えることができるようになりました。
技術やアイデアを持つ中小企業にとってはチャンスとなります。
さいごに
今回は、「小さい会社が世界で稼ぐ」の中から、「スマイルカーブ」と「情報の重要性」の論点について紹介しました。
グローバル競争やテクノロジーの急速な発展により、大企業ですら苦戦が強いられている昨今において、中小企業も請負事業をしているのみでは先行きは厳しいといえます。
中小企業であっても常にイノベーションの種になるような稀少な情報を探し求め、付加価値の高い製品やサービスへとシフトしていく必要があります。
本書「小さい会社が世界で稼ぐ」では、世界で成功している中小企業の事例が豊富に紹介され、そこから導き出された成功の秘訣が詳述されています。
中小企業が外国企業とつながり、成果を出すためのヒントが多く記載されており再現性の高いものです。
興味のあるかたはぜひ一読されることをおすすめします。