【海外子会社管理・異文化マネジメント】外国人との交渉で成功するために留意すべき5つの原則。

海外において事業する上で難しいのは、文化・慣習のちがう外国人との交渉です。

「うまく合意ができた思ったのに、契約段階で反故にされた」、とか、「ちょっとした一言で交渉相手とうまくいかなくなってしまった」、など海外で仕事をしているとよく聞く話であります。

交渉の進め方や、契約への考え方は、国や文化圏で大きく変わってきます。

それでは、外国人との交渉をスムーズに進め、ウィンウィンの成果を得るためにはどのような点に留意すべきでしょうか。

当記事では、ハーバード・ビジネスレビューより公表された論文「異文化交渉力・5つの原則」を元に、外国人との交渉で成功するために留意すべき点について、考えて見たいと思います。

前回の記事と同様、この「異文化交渉力・5つの原則」の著者はエリン・メイヤー氏。名門ビジネススクールINSEADの教授で、異文化マネジメント分野の第一人者です。

本論文では、様々な国での文化とビジネス慣行を分析し、5つの原則を導き出すことに成功しています。

本記事ではこの5原則について簡単に紹介してみたいと思います。

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反対意見の表明

本論文では、反対意見の表明の仕方に留意が必要であると説きます。

ある文化で相手のイエスを引き出すために必要なことが、別の文化ではノーの原因となる。交渉を成功させるためには相手の反応を感じ取らなければならない。

たとえば、反対意見を表明する際に使われる単語として、言語学でいうところの「アップグレーター」と「ダウングレーター」の例で説明されています。

 

アップグレーダー:

「完全に」「全面的に」「まったく」など、賛同しない意思を強調するときに使う単語

ダウングレーター:

「ある程度」「少々」「どちらかといえば」など、不賛同の意を和らげる単語

たとえば、否定をするときに「アップグレーター」を使う文化である米国人が、「ダウングレーター」である日本人と交渉するときにはミスコミュニケーションが発生しやすいといいます。

たしかに、日本人的には、「はっきりとNo」を言うのははばかられますよね。

「ちょっとむずかしそうです」とか「厳しいんではないでしょうか」、英語では 「a bit difficult」とか「maybe impossible」とか言ってしまう日本人は多いと思います。

このような言い回しを言う場合、日本人的には、心のなかでは「これは無理」と思っているケースが大半と思いますが、米国人からすると「かなり交渉の余地あり」と捉えています。

文化ごとの反対意見の表明の仕方に注意して、発言の真意をくみとる努力が必要です。

感情表現の強弱

感情の表現の仕方が文化によって異なるということも理解しておかなければなりません。本論文では、

テーブルに静かに座り、率直な議論をせず、ほとんど熱意も示さないのは、悪い印象か?

という例に対して、

文化による」と解説しています。

確かに、あまり喋らず沈思黙考型の文化もあれば、なんでも大げさに表現する感情表出型の文化もあります。

著者は、「沈思黙考型の文化圏において、感情を露わにすることは、成熟さやプロ意識の欠如とみなされる」と指摘します。

交渉相手の文化圏における感情表現の方法について理解しなければなりません。

信頼の築き方

交渉において、信頼を築くことも非常に需要です。

本論文では、信頼を「認知的信頼」と「感情的信頼」の2種類に区別します。

認知的信頼:

相手の実績やスキル、信用度に関する自身の判断がバロメーターになる。「頭」で考えるもの。

感情的信頼:

親近感や共感、友情に起因する。「心」からくるもの。

認知的信頼」は、仕事の成果や一貫性から信用を得ることであり、「感情的信頼」は、普段接するなかで感じる雰囲気やキャラクターからくる親近感から信用を得ることいえます。

ビジネスにおいて、どちらの信頼が重視されるかは、国や文化で異なります。

たとえば、米国では「認知的信頼」と「感情的信頼」を明確に区別し、中国では2つを結びつけるといいます。

これは、米国において信頼を得るには仕事上でパフォーマンスを発揮する必要がある一方、中国では、プライベートでの信頼を勝ち抜くために、お酒の席などで個人的な絆を結ぶことが効果的ということです。

自分が交渉する国の文化特性が「認知的信頼」を重視するのか、「感情的信頼」も重要となってくるのかを理解して、交渉に望むことが効果的といえます。

イエスかノーか

イエス」「ノー」の意志表示も、文化によって異なります。

本論文では、「イエス」が本当はノーを意味するような文化もあれば、「ノー」が「もっと話し合おう」の意味だったりする文化もあると解説します。

日本人は「イエス」「ノー」をはっきり言わずに曖昧にしておく文化ですので、この点は良く理解できるのではないでしょうか。

「イエス」「ノー」は、最終的に意志を表示する単語なので、その意味を正しく理解することは非常に重要です。

相手に誤解を与えないように、交渉相手となる文化圏によっては「イエス」「ノー」をはっきりと伝えるべきだ、ということは留意すべきでしょう。

また、本論文では、質問の仕方について、「イエス」「ノー」で回答を得る聞き方ではなく、具体的なアクションをもとめる質問が有効であると提案します。

たとえば、「この仕事ができますか?」ではなく「この仕事を終わらせるのにはどれくらいかかりますか?」のような質問です。

文書化

文書化が重要な文化」とそうでない文化があります。

欧米では、文書化して明示することが非常に重要であり、明確化していくことが交渉の基本です。

ところが一方で、アジアでは文書化よりも「人としての信頼」が大事となります。

このような文化圏で下手に契約書をもとめると、「信頼されていないのではないか」と疑念を生じさせてしまう場合があります。

そこで本論文では、契約書を締結する際は最初の草案を交渉相手にドラフトしてもらうことを勧めています。

これにより相手が約束についてどれくらい詳細に考えているかがわかるためです。

また、新興国で交渉する際には、一度合意した点でも再検討をしなければいけないケースもあるという点に留意すべきとアドバイスしています。

さいごに

外国人との交渉において留意すべき5原則について解説しました。

本論文では、上記の5原則はあるものの、やはり最終的に成否を分けるのは、「交渉相手との間に信頼を築けるか」であると結論づけています。

無駄な誤解が生まれないように、相手の文化を理解した上で交渉をすすめる中で相手との信頼を強固に築いていくことが大事なのでしょう。

本論文では、具体的な国名がと例示が出てきますので興味を持った方、実際に特定の外国人と交渉をする機会のある方はぜひ一読することをおすすめします。

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