売掛金の管理において有用な指標に「売掛金回転期間」があります。
今回は、忙しい海外子会社の社長が売掛金の残高に異常がないかを、ササッと分析することができる「売掛金回転期間」について解説します。
売掛金回転期間の算定方法
売掛金とは、お客さんにモノ・サービスを提供した対価のうち、未収のものをいいます。
売上の計上により直接増える資産であるため、売上不正の隠蔽に使われやすい資産項目です。
くわしくは以下の記事を参考にしてください。
海外子会社を管理する上で、重要な項目の一つに「売掛金」があります。 売掛金とは、お客さんにモノ・サービスを提供した対価のうち、未収のものをいいます。 販売代金を取引の事後に支払ってもらう場合、代金の支払いを受けるまでに計上される会計上の資[…]
売掛金残高の妥当性チェックに利用されるのが「回転期間分析」です。
回転期間分析は、ある一定時点に計上された売掛金が回収される速さを示す指標で、平均何ヶ月分の売上に相当する売掛金が計上されているかを示す指標です。
売掛金残高÷(年間売上高÷12ヶ月)
つまり、一定時点における売掛金残高を年間平均1ヶ月あたりの売上高で割ることで、平均月間売上高の何ヶ月分が残っているかを算定します。そのため算定された数値の単位は「ヶ月」です。
たとえば、以下の状況を考えてみましょう。
期末時点の売掛金残高:30万円
この場合の売掛金回転期間は、30 ÷ (120÷12)=3ヶ月。期末に残っている売掛金は3ヶ月分の売上に相当する残高と推測できます。
なお、月数のかわりに日数を利用する「売掛金回転期間(日数)」や、「売上高÷売掛金」で算定する「売掛金回転率」などもありますが、全て売掛金の回収速度を算定する指標であることにはかわりません。
積上回転期間は精緻
売掛金回転期間分析の欠点は、売上高を年間平均で簡便的に算定しているため、状況によっては、結果が歪んでしまう点です。
たとえば、年の前半は販売が不調でゼロ、ところが最後の10月、11月、12月に連続で120万円の売上が上がるケースを考えてみます。
上述の回転期間分析の式に当てはめると回転期間は「12ヶ月」との結果となります。
売掛金360万円 ÷ (年間売上360万円 ÷12ヶ月) =12ヶ月
本当は3ヶ月分の売掛金が残っているにすぎないにもかかわらず、分析上は12ヶ月分の残高が残っているということになってしまう。
そのため、回転期間を分析して異常な数値となった場合は「積上回転期間」を検討する必要があります。
積上回転期間とは、ある一時点における売掛金が、直前何ヶ月分の売掛金から構成されるかを表す期間です。
上述の例だと、期末時点における360万円は、10月〜12月の3ヶ月分に相当する残高であるため、「3ヶ月」となります。
積上回転期間によれば正確に算定することができますが、個々の取引先ごとに取引額を見ていくことになるため、管理の手間がかかります。
状況に応じて、平均売掛金回転期間と積上回転期間を使い分けましょう。
売掛金回転期間の使い方
企業はできるだけ早く資金を回収しなければなりません。キャッシュがなければ商品の仕入もできず、人件費や給与も支払えません。
そのため、売掛金はできるだけ回収すべきで、売掛金回転期間は短いほど望ましいといえます。
売掛金回転期間の使い方は3つです。
1.契約で決められた支払条件と比較する
現金ではなく掛取引をする場合、取引先との間で回収に関する条件を取り交わします。算定された売掛金回転期間が主な得意先との間で決められた支払期間と相違する場合は注意が必要です。
2.自社における過去の回転期間と比較する
得意先との回収条件が同一であるにもかかわらず、回転期間が過去の推移から変化している場合は、何らかの事情があるはずですので原因の究明が必要です。
3.同業他社と比較する
同業他社が開示している財務数値があれば、自社の回転期間と比較すべきです。
業種により慣行的な回収条件というのはある程度決まっていますので、同業他社に比較して回転期間が長い場合は、自社が不利な条件を取り交わしている可能性もあります。
売掛金回転期間が長い場合の留意点
取引先との支払条件、自社の過去の実績及び同業他社と比較した結果、売掛金回転期間が長いと感じた際に確認すると有用なポインとは以下の3つとなります。
1.回収が滞っている得意先はないか
回収が滞っている得意先がある場合、売掛金は積み上がっていくので回転期間が長くなります。
回収が滞っている理由が得意先の資金繰りを原因とする場合、現金が回収できず貸倒れるリスクもあるため、回収に向けてできるだけ早くアクションを起こす必要があります。
また、会計上も回収が難しそうな金額については引当を計上して損失としておとすことを検討します。
2.会計処理を誤っていないか
会計処理誤りで回転期間が異常値となっていることも考えられます。たとえば売掛金を回収したにもかかわらず、会計上、売掛金ではない資産で処理してしまったら回転期間は長くなります。
3.不審な売上計上はないか
販売実態のない架空の売上を計上した場合も回転期間が長くなります。
架空売上では売掛金の回収のメドはないため、通常未回収債権として長期に滞留することになります。
不正目的で架空売上を計上する場合は、一時的な入金や会計操作のような隠蔽行為を伴います。そのため、入出金の動きに異常がないかなど俯瞰的に調査する必要があります。
さいごに
売掛金の回転期間分析は、瞬時に計算できるわりには多くのことを示唆してくれます。
モニタリングツールのひとつとして海外子会社管理に取り入れることをおすすめします。