シンガポールの恒久的施設(PE)について解説。

国際税務の重要なルールとして、

 

「 PEなければ課税なし 」

 

という言葉があります。聞いたことがある方は多いと思いますが、一体どのような概念でしょうか。今回は、シンガポールにおける恒久的施設(PE)について解説したいと思います。

 

恒久的施設(PE)の概念はなぜ必要?

国家間の課税問題はセンシティブであり、発生した所得はどこの国で課税すべきかが問題になります。この恒久的施設(PE)はそれを明確にするものです。

国が、国内で実質的に業務を営む居住法人や居住者に対して課税することについては異論の余地はないと思います。

一方で、非居住の外国法人が国内で儲けているのに、その国内で稼得した利益に対して課税されないのはズルい、ということになります。

そのため、外国法人や非居住者が国内に「恒久的施設(PE)≒収益活動の実態」を有している場合は、国内源泉の所得について課税対象とすることになります。

 

恒久的施設(PE)とは

PEとは恒久的施設(Permanent Establishment)の略で、支店や工場など事業を行なう一定の場所を指します。国によってその範囲は異なります。

シンガポールの恒久的施設(PE)については、日本との間で締結されている租税条約において定義されます。

第5条 恒久的施設

1.「恒久的施設」とは、事業を行なう一定の場所であって企業がその事業の全部又は一部を行っている場所を言う。

2.恒久的施設には、特に、次のものを含む。

(a) 事業の管理の場所

(b) 支店

(c) 事務所

(d) 工場

(e) 作業場

(f) 鉱山、石油又は天然ガスの坑井、採石場その他天然資源を採取する場所

上記以外にも、工事現場等は6ヶ月を超えて存続する場合のみ「恒久的施設」に含まれることや、物品の保管、展示や引き渡しのみに施設を使用する場合は「恒久的施設」に含まれないなど詳細に規定されていますので、つど確認が必要です。

また、支店や工場など「物理的な」施設でなくても、企業に代わって行動するような所定の「代理人」が存在する場合もPEとして認定されます(代理人PE)。

第5条5

〜企業に代わって行動する者(省略)が、一方の締約国内で、当該企業の名において契約を締結する権限を有し、かつ、この権限を反復して行使する場合には、当該企業は、その者が当該企業のために行なうすべての活動について、当該一方の締結国内に「恒久的施設」を有するものとされる。〜

 

課税される国内源泉所得の範囲

日本星租税条約の規定により、恒久的施設(PE)が存在し、シンガポールにおいて課税される場合、国内源泉所得のうち恒久的施設(PE)に帰せられる利益に対してのみ課税されます。

第7条1

一方の締約国の企業の利得に対しては、その企業が他方の締約国内にある恒久的施設を通じて当該他方の締約国内において事業を行いわない限り、当該一方の締約国においてのみ租税を課すことができる。

一方の締約国の企業が他方の締約国内にある恒久的施設を通じて当該他方の締約国にあにおいて事業を行なう場合には、その企業の利得のうち当該恒久的施設に帰せられる部分に対してのみ、当該他方の締約国において租税を課すことができる。

恒久的施設(PE)と認定された場合

シンガポールにある施設・機能が恒久的施設(PE)とみなされた場合、シンガポール現地にて申告・納税することが必要となります。

シンガポールに拠点がなく、輸出を行っているだけの場合や、駐在員事務所で現地調査などを行っているケースなどは、恒久的施設(PE)と認められないので申告は不要です。

 

国外グループ会社のための活動

シンガポール国内において、シンガポールの会社が国外関連会社のために行なう活動が、国外関連会社の恒久的施設(PE)とみなされる場合があります。この場合、原則どおり国外関連会社の恒久的施設(PE)に帰属する利益については、シンガポールで課税対象となります。

一方で、以下の条件を満たす場合は、グループ内役務提供については、免税となります。

1. シンガポール会社が国外関連会社から受け取る報酬が独立企業間価格であり、提供する機能、利用するアセット、引き受けるリスクは同一である。

2. 国外関連会社からシンガポール会社に支払われる報酬が移転価格のルールに準拠しており、十分な移転価格の文書化がなされている。

3. グループ内役務提供契約に基づくシンガポール会社の業務以外に、国外関連会社がシンガポールにおいていかなる機能も実行せず、資産を使わず、またリスクを負わない。

IRAS Attribution of Profits to Permanent Establishments (PEs)


グループ企業間の活動についてまで恒久的施設(PE)として課税対象とすると、課税関係が複雑になるため、独立企業間価格で実施されている取引については除外する趣旨です。

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さいごに

恒久的施設(PE)の規制を逆手にとり、要件を充足しないスキームを取ることで課税を回避する多国籍企業が問題となっていることから、国際機関のOECDは新たにPEの範囲を拡大させる方向で対抗しています。

また、近年ではデジタルによるサービス提供の隆盛により、各国政府が適切に所得に課税できない自体が問題となっています。たとえば、動画配信サービス業者は日本に工場や支店のような施設がなくても日本の顧客から収益をあげることができますが、日本の税務当局はこの所得に対して課税することができません。

このデジタル課税について、新しいルール作りがOECDを中心に進められており、従来の恒久的施設(PE)の概念が変わりつつあります。

恒久的施設(PE)の認定が微妙な場合は、当局の判断によることになります。非居住法人がシンガポール国内において活動する場合は、恒久的施設(PE)に該当するか否かを慎重に検討しておく必要があります。

 

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