シンガポールにおいて会社運営上の概念として、実質的所有者(Registrable Controller)というものがあります。
この実質的所有者(Registrable Controller)は会社法上、情報収集が求められる重要な概念であるため、シンガポールで事業をする方は十分留意する必要があります。
今回はシンガポールの実質的所有者(Registrable Controller)について見ていきたいと思います。
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Registrable Controller(実質的所有者)とは
実質的所有者(Registrable Controller)とは、「重大な利益」または「重大な影響」を有する法人または個人をいいます。具体的には、以下のとおり定義されています。
・25%を超える株式持分
・25%を超える議決権
2.重大な影響を及ぼす会社または個人
・取締役会の議決権の過半数を保有する役員を任命または解任する権利を有する
・会社株主の決議事項について25%超の議決権を有する
・会社に重大な影響や支配を及ぼす権利を行使する
実質的所有者(Registrable Controller)についてシンガポールで求められること
2017年3月31日の会社法改正により、会社は実質的所有者(Registrable Controller)を特定し、実質的所有者の詳細な情報を入手し、会社の登録事務所(registered office)または登記代理人(filing agent)の登記事務所において保管することが義務付けられました。また、2017年3月31日以後設立された会社は、設立から30日以内に実質的所有者に関する名簿を作成する必要があります。
2020年7月30日より、従来の「実質的所有者(Registrable Controller)」情報の保管義務に加えて、同じ情報をシンガポール登記局(ACRA)の所定のサイトに登録することが求められることとなりました。
なお、当初の登録期限は2020年9月29日でしたが、コロナウィルスの影響など鑑み、登録開始は2020年12月、登録期限は2021年6月30日まで延長されています。
実質的所有者(Registrable Controller)の登録情報
会社の実質的所有者(Registrable Controller)に関して求めらる情報は以下となります。
・Name(名称)
・Nationality(国籍)
・Address(住所)
・Identity card number or pass port (IDナンバー)
・Date of Birth(誕生日)
・Registrable Controllerに該当した日
実質的所有者(Registrable Controller)の確認方法
会社は実質的所有者(Registrable Controller)と思われる個人または法人に対して通知又は確認する必要があります。
なお、直接の株主のみならず、その株主を所有している個人または法人(Ultimate Beneficial Owner)についてもRegistrable Controllerの範囲に含まれる点留意が必要です。
なぜ実質的所有者(Registrable Controller)の把握が必要か
主にマネーロンダリング対策を目的とします。
マネーロンダリングとは
シンガポールのような世界の金融ハブとなっていて世界中から資金が集まる国においては、金融システムの健全性、透明性が求められるため、資金の流れについて厳格な管理が必要となります。また、シンガポールは資金移動が比較的自由な国で、税率も低い(法人税率17%)ため、不透明な資金が集まりやすいということもあります。
そのため、シンガポールの会社から最終的に利益を得ているのは誰かを明確にするため、実質的所有者(Registrable Controller)の情報を補足することとなりました。
実質的所有者(Registrable Controller)の情報については、シンガポール登記局(ACRA)への登録のほかにも、シンガポールにおいて銀行口座を解説する際にも情報の提出が求められます。これも金融機関におけるマネーロンダリング対策の一貫となります。
さいごに
実質的所有者(Registrable Controller)の登録内容に変更がある場合は、2営業日以内に更新する必要があり、登録義務を怠った場合には、ペナルティも課せられるため、シンガポールの会社の実質的所有者(Registrable Controller)の動向を把握する必要があります。
当該情報は執筆時現在に公表されている法令・ガイドライン等を参照しています。本記事に記載された制度は、法令・条例・通達・税制の変更・改正等により、改廃が行われている可能性があります。従いまして、特定の目的利用及び専門的な判断にあたっては、会計・監査・法務・税務・労務等の専門家にご相談頂くようお願いいたします。本資料に基づいた行為(不行為)につき、一切の責任を負いません。