シンガポールでは、東南アジア地域の統括拠点を誘致するため、税制をはじめとした各種インセンティブ制度を導入しています。
今回は、シンガポールではどのような地域統括会社の優遇税制・インセンティブを導入しているか紹介していきたいと思います。
地域統括会社(Regional Headquarters: RHQ)
シンガポール国外の3カ国以上へ統括サービス提供を行うなど、制度の定める要件を満たした会社が利用できる。15%の軽減税率を適用することができる。
<適用要件>
地域統括会社(RHQ)の適用には、以下の全てを満たす必要がある。
・シンガポールで設立、登記された会社
・一定の実績、規模を有する企業グループであること
・グループの指揮命令系統の中心であり、管理統括機能を有すること
・以下の形式要件を満たすこと
項目 | 要件 |
資本金 |
・利用開始から1年内:払込資本がSGD20万以上 ・利用開始から3年内:払込資本がSGD50万以上 |
支出 |
・利用開始から3年内:年間事業支出をSGD200万増加 ・利用開始から3年内:総事業支出(*)の累計をSGD300万増加 (*) 総営業費用から国外外注費、原材料費、部品費等を控除した金額 |
提供するサービス |
3種類以上の役務提供を3カ国以上の国外グループ会社(*) (*) 子会社、兄妹会社、支店、合弁会社、駐在員事務所 |
人事 |
・国家技術資格2級以上の資格を持った従業員が継続的に75%以上 ・利用開始から3年内に10名以上の専門職(大学学位等)を雇用 ・利用開始から3年内に上位5名の経営幹部平均年収がSGD10万以上 |
<インセンティブの内容>
原則として3年間、海外からの適格収入について15%の軽減税率が適用される。
3年経過後、適用要件を満たしている場合は、15%の優遇税率をさらに2年間延長できる。
適格収入は、海外子会社からの経営管理料、サービスフィー、ロイヤルティなどが該当する。
国際統括会社(International Headquarters: IHQ)
地域統括会社(RHQ)の該当要件を大きく上回る大規模企業向け。地域統括会社に比べてさらに有利な軽減税率(5%または10%)を適用することができる。
<適用要件>
国際統括会社(IHQ)は、地域統括会社の適用要件を大きく上回る大規模な統括会社が利用する。
RHQとなるかIHQでいけるかは、シンガポール経済開発庁(EDB)との協議で決定する。
インセンティブの内容が有利であるため、シンガポールへの貢献が大きいことが条件。
<インセンティブの内容>
5〜10年間、適格所得の増加分に対して5%または10%の軽減税率が適用される
適格所得は経営管理料、サービスフィー、ロイヤルティの他、販売、貿易が含まれる。
優遇税率のほか、個別のインセンティブ(IHQ Award)が適用される。
パイオニア・インセンティブ(Pioneer Certificate Incentive)
パイオニア・インセンティブ(Pioneer Certificate Incentive)は、シンガポール政府の奨励する特定製品の製造に関するインセンティブ制度。
<適用要件>
パイオニア・インセンティブについては、形式的な基準が明示されておらず、シンガポール当局との交渉で決定される。該当する領域は以下。
・実験、コンサルティング、R&Dなどテクニカルサービス
・コンピュータ関連サービス
・産業デザインの開発、政策
・その他の指定サービス、活動
<インセンティブの内容>
パイオニア・インセンティブの認定を受けた事業については、法人税が免税となる。
開発及び拡張インセンティブ(DEI)
開発及び拡張インセンティブ(Development and Expansion Incentive)は、上記のパイオニア・インセンティブの認定を受けることができなかった企業が、新規プロジェクトまたは既存事業の拡張・増強することに対するインセンティブである。
<適格要件>
以下の項目を基準に、シンガポール経済開発庁(EDB)の裁量により判断される。
・固定資産投資額
・事業支出総額
・技術・能力開発
・プロジェクトの質
・技術革新
<インセンティブの内容>
開発及び拡張インセンティブ(Development and Expansion Incentive)が認められれば、適格活動から生じる収入に対して5%または10%の優遇税率が適用される。
グローバル・トレーダー・プログラム(GTP)
グローバル・トレーダー・プログラム(Global Trader Program: GTP)は、国際貿易に従事する企業がシンガポールに貿易拠点を設置する企業に対する優遇制度。
オフショア貿易の地域統括拠点としてシンガポールを活用する会社で、以下の機能を有する。
・事業、投資計画の調整
・財務管理、ファイナンス機能
・市場開発、計画
・倉庫、貨物輸送など物流サービス
<適用要件>
グローバル・トレーダー・プログラム(Global Trader Program: GTP)の適用にあたっては、以下の条件をすべて満たす必要がある。
・シンガポールで実質的な業務を行っていること。
・中〜大規模会社で国際的なネットワークと健全性を有すること。
・適格製品の貿易、調達、流通、輸送を実施していること。
・以下の形式基準を満たすこと。
売上高 | 年間売上高がUSD1億以上 |
年間支出 | 国内事業で年間SGD300万以上 |
人事 | 最低3名以上の貿易専門家(調達、セールス・マーケティング、リスクマネジメント。ローカル、駐在員いずれも可) |
<インセンティブの内容>
グローバル・トレーダー・プログラム(Global Trader Program: GTP)が認められれば、原則5年間、以下の所得に対して優遇税率である5%または10%が適用される。その後、要件を満たしていれば5年間延長することができる。
・特定のコモデティ商品の現物取引から生じた所得
・コモデティ商品のデリバティブ取引から生じた所得
・適格仕組商品の資金調達活動、財務活動またはM&Aアドバイザリーサービスから生じた所得
ファイナンス&トレジャリーセンター・インセンティブ(FTC)
ファイナンス&トレジャリーセンター・インセンティブ(Finance and Treasury Centre Incentive: FTC)は、国際的に事業展開している企業で、シンガポールを拠点として域内のグループ会社に対して財務・資金調達活動をおこなう多国籍企業向けの優遇制度。
<適用要件>
ファイナンス&トレジャリーセンター・インセンティブ(FTC)は、下の金融・ファイナンスサービスをグループ会社に提供する場合で、形式基準を満たす場合に適用される。
・シンガポール金融機関、グループ会社資金でのクレジット・ファシリティ(与信枠)
・保証、証券、予備信用状の供与や送金サービス
・デリバティブ取引の手配
・シンガポール国外の関連会社の資金管理
・経済、投資に関する調査、分析
・信用情報の管理
・管理業務
・事業計画策定
<形式基準>
事業支出 | 年間支出SGD75万以上(支払利息を除く) |
人事 | 専門スタッフ3名以上 |
<インセンティブの内容>
ファイナンス&トレジャリーセンター・インセンティブ(FTC)が認められれば、ファイナンス、トレジャリー関連のサービスから生じる所得・配当(*)に対して、最大10年間、10%の優遇税率が適用される。
・MAS(Monetary Authority of Singapore)に認定された子会社に対する適格サービスから得られる所得
・利息、配当、株式・社債取引、金利スワップ、オプションから得られる所得
・シンガポール国外への利息支払いについて源泉税が免除
研究開発に係るインセンティブ(R&D)
シンガポールで研究開発活動(Research and Development)行う場合、認められたR&D活動またはR&Dサービス会社への外注業務にかかるR&D費用を法人税計算上控除できる制度。
<適用要件>
研究開発に係るインセンティブ(R&D)は、以下を全て満たす場合に適格R&Dを活動となる。
・新しい知識の習得、新製品、新プロセスの創造、既存製品・プロセスの改良を目的とする
・シンガポールで初めての試み、容易に解決できない技術的リスクがある
・科学、技術分野における組織的調査、実験による研究である
以下の活動は適格R&D活動に該当しない。
・品質管理、素材・製品の定型的なテスト
・社会科学や人文学の研究
・効率性調査、経営研究
・素材、製品、プロセスや生産方法の形式的変更
<インセンティブの内容>
研究開発に係るインセンティブ(R&D)は、以下の3つのケースの場合で異なる。
いずれの場合においても、申請する企業自身が適格R&D活動からの受益者であることが要件となる。
・自社で行なう
・R&Dサービス提供者へ外注する
・費用負担契約に基づいてR&Dを活動に参加する
自社で行なう場合 |
・100%費用控除 ・適格人件費、消耗品費実際支出額に対して150%の追加控除 |
外注先に委託する場合 |
・100費用控除 ・外注費用の60%相当額、または適格人件費及び消耗品費の実際支出額のうちいずれか高い額に対して150%の追加控除 |
費用分担契約に基づく |
・分担した費用の100%費用控除 ・シンガポール国内でおこなうR&D活動費用:外注費用の60%相当、または適格の人件費及び消耗品の支出額いずれか高いほうの金額に対して150%の追加控除 |
さいごに
地域統括会社の優遇制度及びその他の主要なインセンティブについて紹介しました。
地域統括会社を設立するにあたっては、もちろん必ずしもこの制度を利用する必要はありません。
軽減税率のインセンティブが多いですが、もともとシンガポール法人税は17%と低税率ですので、今回の制度を利用しない場合でもシンガポールに地域統括会社を設立するメリットは大きいといえます。
とはいえ、少しでも事業を有利に展開するために利用できそうな制度があれば検討をすべきでしょう。
参考資料
当該情報は執筆時現在に公表されている法令・ガイドライン等を参照しています。本記事に記載された制度は、法令・条例・通達・税制の変更・改正等により、改廃が行われている可能性があります。従いまして、特定の目的利用及び専門的な判断にあたっては、会計・監査・法務・税務・労務等の専門家にご相談頂くようお願いいたします。本資料に基づいた行為(不行為)につき、一切の責任を負いません。