インターネットの発達により海外との物理的な距離が問題とならなくなったこと、言葉などの参入障壁が減ったこと、さらには飛行機などの移動手段がリーズナブルに多様となったことなどを要因として、様々な企業が海外進出できる時代となりました。
そこで、今回は企業の海外進出の方法とその最終形である地域統括会社の形態について解説したいと思います。
海外進出の方法
1. 日本本社の直接取引
企業が海外から受注を受けた場合、まず海外進出の第一歩は、顧客と直接取り引きすることになります。その後、取引の規模が大きくなったり、戦略的に海外売上を増加させるためには、海外の代理店を活用することや、海外に子会社を設立して、自社で市場を開拓することを目指すことになります。
メリットは、拠点設立や維持の管理コストがかからないことがありますが、デメリットとして、海外取引の特殊性として、輸送費や関税など追加的なコストがかかること、また海外各国の情報が入手できず、本格的な市場参入が難しいことが挙げられます。
そのため、ある程度海外取引が増大してきた段階で、現地の代理店契約を締結するか、自社で進出する事になります。
2. 日本本社と海外代理店の取引
海外取引が増えてきたら、海外代理店と契約を締結して、自社の製品・サービスを販売する形態に移行します。メリットとしては、1. 現地への浸透が容易、2.コストが比較的抑えられることが考えられます。一方で、1.コントロールの困難性、2.知見がえられないことなどがデメリットとして考えられます。
代理店のメリット−1:現地への浸透が容易
海外における販売活動において、マーケットの事情に精通していないと、商慣習の理解や現地に適したマーケティング戦略の立案が困難です。そこで、現地にネットワークを張る代理店と契約すれば、自社での営業やマーケティング活動そこそこで海外市場に浸透することができます。
代理店のメリット−2:現地への浸透が容易
また、海外に自社拠点を設けるのに比べて、資本投下のボリュームを抑えることができるため、戦略の変更や、市場からの撤退を低コストで実行できる。
代理店のデメリット−1:コントロールが困難
現代では、販売やアフターサービスなど顧客と接点のあるところで高付加価値を出しやすいところ。ところが代理店をかませてしまうと、その付加価値をコントロールできる部分を手離すことになっていまいます。
代理店のデメリット−2:知見・ノウハウの蓄積ができない
自社で海外に拠点を出す重要なメリットの一つは、経験値を得ることにあります。ところが、現地の代理店に販売やマーケティングを任せるやり方では、現地の声は届きにくく、また現地商慣習の蓄積ができません。
3. 合弁会社(Joint Venture)
本格的に海外市場での販売が広がってきた場合、または外国の外資規制により、自社のみでは子会社の設立が不可能である場合は、現地の企業と合弁会社(Joint Venture)を設立することになります。
この方法によれば、現地パートナーのネットワークや経験を利用することができ、マーケットへの浸透をスムーズに行える可能性が高いです。また、海外進出のリスク、コストの一部を合弁先と分担することができます。
一方、合弁会社方式だと、企業秘密を守ることができないため技術の流出やノウハウの流出となるおそれもあります。さらに、パートナーとのコミュニケーションコストが生じ、万が一戦略の不一致が置きた場合は、合弁会社が機能不全に陥るリスクがあります。
4. 海外子会社の設立
代理店や合弁会社におけるデメリットを回避するためには、自社で完全子会社を設立することが必要です。自社子会社であれば技術やノウハウが流出することを防げますし、現地の知見、ノウハウを蓄積することも可能です。また、顧客との接点をコントロールすることで高付加価値をつけることができます。
海外に子会社を設立するには時間や費用など多大なコストが掛かりますし、撤退も容易にはできないので、十分検討してから進出する必要があります。
5. 地域統括会社の設立
複数国に海外子会社を設立していった場合は、各子会社を効率よく管理し、またコストを最適化するために地域統括会社の設立を検討します。
みずほ総研が2016年に行った調査によると、総売上高1300億円〜1500億円、海外売上比率35%程度を超えたあたりで地域統括拠点による管理に移行する会社が多いとのことでした。
地域統括会社の形態
地域統括会社の機能とメリットについては、【シンガポール・地域統括会社】機能とメリットについて解説!で説明していますが、当記事では、地域統括会社の形態について見てみたいと思います。
地域統括会社の形態.1−日本本社による管理
まずは海外に地域統括会社を設立しないで、日本の本社から各海外子会社を管理する方式です。この方式によれば、日本本社の意向・戦略をトップダウンで海外子会社に伝えることができるため、コントロールが容易です。その一方で、情報収集が困難になることやタイムラグが生じることで、現場に近い正確かつ最新の情報の入手や適時の事業戦略立案・実行が困難となるおそれがあります。
地域統括会社の形態.2−既存の海外子会社に統括機能を付与
この方法は統括会社の新規設立や、資本の移動を必要としないため、比較的容易に海外統括機能を有した子会社(左図ではシンガポール子会社―A)による海外子会社管理を行うことができます。ただし、資本による支配権を有しないため、統括管理の実効性が弱くなります。この欠点を補うためには、シンガポール子会社―Aに各海外子会社のマネジメントの評価や人事権を付与するなどの工夫が必要となります。
地域統括会社の形態.3−既存の海外子会社を統括会社による出資
上記形態.2のデメリットを補うため、統括会社(シンガポール子会社―A)が被統括会社(タイ子会社―B、ベトナム子会社―C)の株式を保有し、株主としてコントロールする方法です。この方法によれば、統括会社は、株主として経営的意思決定を行うことができますので、統括機能の実効性を確保することができます。一方デメリットとしては、株式の譲渡にかかる手続きや税務は各国の法制度によるため、譲渡側、譲受側の両方で慎重に検討する必要があり、コストと時間がかかります。また、統括会社となる海外子会社は、従来の通常業務に加えて海外子会社統括業務を行う必要があるため、負荷がかかり統括機能を十分に発揮できない可能性もあります。
地域統括会社の形態.4−地域統括会社を設置
地域統括会社の最終形態は、統括業務を専任で行う地域統括会社を新設し、各海外子会社の株式を所有する方法です。この方法によれば、統括会社は各海外子会社の出資者として統括業務に専念できるため、統括機能の実効性を最大限確保することができます。一方デメリットとしては、地各被統括会社に対する役務提供の対価(例えば、マネジメントフィーや、シェアード業務など)は受けることができるものの、域統括会社はグループ外部からの収益を生まないため、グループ全体からみてコストセンターとなる点です。そのため、統括業務に専任する統括会社を設置する場合は、その金額的、時間的なコストを正当化できるメリットがあるか慎重に検討する必要があります。
さいごに
今回は、企業の海外進出の方法、その最終形である地域統括会社の形態について見てみました。海外の一定のエリアごとに子会社を地域統括会社に管理させることは、様々なメリットがあります。
ただし、企業グループの状況によってはコストに見合うだけの効果が得られないことも多いこと、また税務面など検討しなければならないテクニカルな項目も多いため、実務に詳しい専門家に確認しながら進めていくことをおすすめします。
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