【書評・レビュー】「働き方5.0-これからの世界をつくる仲間たちへ」。今読むべきAI時代のキャリア戦略。

キャリアの未来について考察する当ブログにおいて、無視できない新作が出版されました。

言わずとしれたメディア・アーティストで筑波大学准教授の時代の寵児「落合陽一」氏の最新作「働き方5.0-これからの世界をつくる仲間たちへ」です。

本書は2016年に上梓された著書「これからの世界をつくる仲間たちへ」のアップデート版という位置付けですが、4年が経過し、さらにはウィズコロナ・アフターコロナで状況が大きく変わった2020年においても、今後の働き方について十分かつ斬新な方向性を与える内容となっています。

ここに気になったいくつかの概念を紹介したいと思います。



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働き方5.0とは?

タイトルの「働き方5.0」とは、私達が現在生きている、

AI、ロボットが幅広い分野で進化し、人間とともに働いていく時代

のこと。

人間社会はその長い歴史を通じて、

狩猟社会(1.0)、農耕社会(2.0)、工業社会(3.0)、情報社会(4.0)

と変遷してきましたが、とうとうAI、ロボット、ITの進化により5.0の時代に突入

このような新しい社会においては、

働き方についての価値観から転換が必要である

ことを主張します。

労働5.0の世界では、コンピュータやインターネットなどのデジタル情報が溢れ人工物と自然物の垣根がなくなる「新しい自然」の世界です。

このような「デジタルネイチャー」の世界では、人間は、

「システムに使われる人」と「システムを利用する人」

に大別されてしまいます。

「システムに使われるような人」は今後、社会で活躍することは難しいし、富を得ることも困難になっていく一方、

「システムを使いこなす人」は、自分の理想を達成し、社会的な課題を解決することで社会的な名声を得ることになる。

そのように著書では提唱されています。

落合氏は本書の中で、「システムに使われる人」と「システムを使いこなす人」を鮮やかな言葉で対比し、今後活躍する人財像を提示します。

まとめると、次のようなイメージでしょうか。

いくつか紹介したいと思います。

ホワイトカラー → クリエイティブ・クラス

「AIで消える職業」の話題や、銀行での大量リストラの話など、最近では

「ホワイトカラーはやばいのでは?」

というのは、多くの人が最近、薄々感じていることではないでしょうか。

決められた事務処理を高速で行うことは、システムのほうが得意であるのは間違いありません。人間は、そのような単純事務処理ではなく、より創造的な仕事が求められる。

そんな時代においては、ホワイトカラーよりも活躍できる人財があります。それは、

「クリエイティブ・クラス」

クリエイティブ・クラスとは、経済・社会学者のリチャード・フロリダが提唱した新しい労働者像で、創造的な知識労働者を幅広く含む概念です。

「解」が氾濫する現代において、誰もが気づかない「問い」を設定し、それを解決し、あらたな価値を社会に創造すること。

そんなクリエイティブ・クラスの人財となることを本書では提唱します。

人工知能のインターフェース → 魔法使い

本書では、システムや人工知能の発達により、

人間が「人工知能のインターフェース」として働く

世界になってきていること指摘します。

例えば料理配達アプリの「UBER Eats」では、注文、配達人手配から決済まですべてシステムで行われ、お客さんに届けるところのみ人間が行っています。

これは見方によっては、人間がシステムの手足となって、最後にお客さんにサービスを提供する一連のラストワンマイルを担当していると見ることもできる。

今後、このようなシステムのインターフェースになることを避けるには、

あたかも他人から「魔法使い」のように見えるくらいの唯一のオリジナルな専門性を身につけるべき

と提案します。

魔法使い」という言葉は、著者の落合陽一氏が最先端のテクノロジーとアートを組み合わせることで、まるで「魔法使い」であることから「現代の魔術師」のキャッチフレーズで呼称されることに由来します。

 一つも魔術を知らないようでは「コンピュータの下請け」のような人生しか待っていない。そう本書は警鐘を鳴らします。

形式値 → 暗黙知

従来は、「情報」が重要でした。

弁護士や公認会計士などの職業専門家も、大学教授など知識人も、「情報」を有していることで評価される時代がありました。

ところが、現代では、「情報」はインターネットで一瞬にして情報がシェアされ、世界中に拡散していく時代。

そういう時代に、「誰でも知っている情報」つまりWikipedia的な「形式知」をたくさん持っていることにはなんの価値もありません。

その一方で、他人にはコピーのできない「暗黙知」を自分の中にためていくことが大事と説きます。

暗黙知」とは、

経験的に使っている知識だが簡単に言葉で説明できない知識のことで、経験知と身体知の中に含まれている概念。 (wikipedia)

例えば、何かの専門分野に精通している研究者は、

普通に検索すると100番目に出てくるような(実質的に誰も見ない)答えを1発で探し当てるキーワードの選び方を知っており、これこそが、シェアされることのない暗黙知の世界

と説明します。

研究を重ねれば重ねるほど、その世界はどんどん深まっていく。そういう知識からオリジナルな企画が生まれ次々と拡大再生産される。

これこそが「働き方5.0」の時代に必要な資質であると解説します。

誰でも知っているような形式知を学んで満足するのではなく、自分で情報を解釈し、思考を深めていくことで得ることのできる「暗黙知」こそが、働き方5.0の時代に必要なものとなります。 

ワーク・ライフ・バランス→ ワーク・アズ・ライフ

 

最近では、長時間労働の低い生産性の問題と相まって、「ワーク・ライフ・バランス」が話題になります。

より良い人生を生きるためには、仕事とプライベートを調和させた

「ワーク・ライフ・バランス」

が大事だという話。よく耳にするテーマです。

ところが本書では、「ワーク・ライフ・バランス」にも疑問を呈します。

そもそも、「ワーク・ライフ・バランス」が問題となるのは「好きなこと」、「やりたいこと」を仕事にしていないから

解決したい問題がある人間は、できることなら1日24時間、365日それに費やしたいと考えています。

そのため、ワークとライフを区別せず、自分のやりたいことに時間を使う生き方を選ぶべき。これこそが、

「ワーク・アズ・ライフ」

として「働き方5.0」の生き方である。そう著者は説明します。 

天才 → 変態 

とかく「天才」がもてはやされます。

ところが「働き方5.0」の時代においては、「天才」である必要はありません。むしろ今後「天才」では活躍できない。そう、著者は説明します。

それでは、どうすればよいか?

変態

を目指すべきだと解説します。

「変態」とは、その分野において変態的な興味を有する者で、比較的レンジの広い専門性で選べる職種も広いこととなります。

本書では建築家の例で説明されます。

「天才建築家」のほうが活躍できそうですが、これは建築士に限定されてしまいます。

一方、「建物好きの変態」であれば、建物にまつわる様々な事に深い興味を抱くため、建築士のみならず、素材、重機、インテリア、都市計画など多種多様な分野で活躍することができます。 

「働き方5.0」に必要な2つの才能

 ここまで見てきたように、「クリエイティブ・クラス」としてある分野に「変態」的に取り組み、暗黙知を蓄積していく。そんな人物像が「働き方5.0」の時代で活躍できることがわかってきました。

そして、著者は2つの概念が「クリエイティブ・クラス」として活躍するため必要であることを説明します。

専門性

クリエイティブクラスは、「自分で教科書を書くぐらいの専門性」を持たなければなりません。

そのために、まず、自分が何を研究し、どんな暗黙知をためていくのかをよく考える必要があり、それがわかってる人はそれだけで有利なポジションに立つことができる。

と説明します。

ただし、やみくもに、専門を掘り下げるべきではなく、

その新しい価値が今の世界にある価値を変えていく理由に、

「文脈がつくか」

について、深く自問する必要があります。

「文脈」とはオリジナリティ。以下の5つの問いに落とし込むことができると解説します。

・それによって誰が幸せになるか

・なぜ今その問題か。なぜ先人たちはそれができなかったのか。

・過去の何を受け継いでそのアイデアに到達したか。

・どこに行けばそれができるか。

・実現のためのスキルは他の人が到達しにくいものか。

「モチベーション」

「仕方なくやっている」仕事はシステムによって取り替えられていく一方、

「人間社会をどうしたいか」、「何を実現したいか」といったモチベーションは、常に人間の側にあります。

そのため、モチベーションの人間のない人間は発達したコンピュータに飲み込まれる、使われる人間になりますが、

「これがやりたい」というモチベーションのある人間は、コンピュータが手助けしてくれるようになります。

先に述べた「専門性」についても、モチベーションと表裏一体であり、

「これが好き」

「この問題を解決したい」

という強烈な興味や好奇心がその人の専門性の源泉になる。

本書ではそう主張します。

さいごに

近未来のビジネス社会である「働き方5.0」に必要なアイテムが、

モチベーション」と「専門性

という、ある意味わかりやすい結論には少しだけホッとします。

たとえば「クリエイティビティ」だの「創造性」が重要といわれると、発揮の仕方がイマイチわかりませんが、

しかも自分がめちゃめちゃ好きな分野の「専門性」で、「モチベーション」を保持して変態的まで高めることはそんなに難しくないのでは。

むしろ、すべての仕事人が、自分が大好きな分野の「専門性」で働けるようになるなんて、なんとも幸せな時代です。

いやいやながら仕事をしている人は早晩システムにとって変わられてしまいます。

今一番やらなければならないこと。それは、「本当に自分が好きなことは何なのかを深く問い」、「そのための行動をはじめる」ことではないでしょうか。

当記事では一部しか紹介できませんでしたが、本書には今後少なくとも10年のキャリアを考えたときに参考になる考え方が多く紹介されています。

AI時代のキャリアに不安がある方は、今野タイミングで読まなければなりません。

プロフェッショナル職、専門職の方には、こちらの記事も非常に参考になります。

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