会計人。
それは資本主義経済の縁の下の力もちであり、決してスポットライトを浴びない存在。
そんなイメージを持たれている方も多いのではないでしょうか。
いえいえ、そんなことはありません。
悠久たる経済史の中で、歴史を変えるような仕事をした会計人の先駆者がいます。
彼らのおかげで資本主義社会は発展し、現代の繁栄の礎となっています。
当記事では、歴史上の偉大な会計人4名を紹介したいとおもいます。
レオナルド・ダ・ヴィンチの親友な「近代会計学の父」
ルカ・パチョーリ(1445-1517)
会計経理職に従事するプロフェッショナルは、この人を知らなければなりません。
それは、イタリアの数学者で『近代会計学の父』、ルカ・パチョーリ(Luca Paciola)。
パチョーリは、1494年に「スマム」と題する数学書を発表します。
これはただの数学書ではなく、人類の経済システムを大きく発展させることになります。なぜなら、「スマム」には、歴史上はじめてとなる「複式簿記の仕組み」に関する学術的解説が記されていたため。
彼は不世出の天才・レオナルドダ・ヴィンチとも親交があり、幾何学立体図形の理論研究など共同で行なっています。ダ・ヴィンチが唯一挿絵を提供したのはルカへの著作だったと言われています。
『スマム』の原題は「算術・幾何・比及び比例全書」であり、複式簿記を専門として解説した書物ではありませんが、その中の1遍に、当時ヴェネチアの商人が使用していたヴェネチア式簿記(複式簿記)を理論的に体系化し、記述しました。
この知識のおかげで、その後の商人は正確な利益を把握し、事業の継続性を高めることが可能になります。
『スマム』の知識はヨーロッパ中に広がり、ヨーロッパ資本主義の急拡大と栄華をに直接的に貢献したことは間違いありません。
軍事力でも、宗教的権威でもなく、ただ一つの簿記の知識がヨーロッパの繁栄をもたらしたというのは、会計人材としてわくわくする歴史ですね。
美の造形者であり「原価計算の父」
ジョサイア・ウェッジウッド(1730-1795)
名前からご想像のとおり、ジョサイア・ウェッジウッド(Josiah Wedgwood)は高級陶器で有名な『ウェッジウッド』の創立者です。
ジョサイアは1772年に、収益と原価を追跡する最初の信頼できるシステムを考案し、『陶芸の父』であるとともに『原価計算の父』と呼ばれます。
高温測定器を発明するなど、科学者としての一面もあり、天才的な人物であったようです。
ときは18世紀の大不況、ジョサイアは経営を成り立たせるために、自力で自社の原価計算システムを開発しテストを繰り返します。
最終的には、店員の横領詐欺を発見できるレベルまでに原価計算システムを開発しました。
原価を精緻に算定できるようになったこともあり、ウェッジウッドの陶器会社は当時の経済危機を乗り切って生き残り、現代でも世界中で何百万もの店舗において美しい陶器を販売しています。
長寿企業の陰には、会計人の叡智があるということですね。
ガラスの天井を打ち破った「世界初の女性会計士」
メアリー・アディソン・ハミルトン(1893-?)
Mary Addison Hamiltonは、20世紀初頭に活躍したオーストラリアの公認会計士。当時のイギリス連邦における初めての女性会計士です。
当時経済の中心であったイギリス連邦における初めての女性会計士なので、「世界初の女性公認会計士」と呼んで差し支えはないのではないでしょうか。
現代でこそ、性別の違いなく平等に会計士となる機会を与えられますが、100年前の当時は、まだまだビジネス界は男性のもの。ハミルトンが会計士になるのは大変な苦労があったことが想像に容易です。
さすが世界ではじめての女性会計士。ハミルトンは、西オーストラリアで最高のスコアでフリーマントル商工会議所の試験に合格し、公認会計士となることができました。
職業ギルド的な集団である公認会計士業界において、優秀な実績を残すことで、男性による閉鎖された業界をこじ開けました。
日本では、いまだに男性優位の業界ともいわれますが、公認会計士協会の会長に女性が就任したり、大手会計事務所の理事長に女性が抜擢されたりと、女性会計士の活躍が目立ってきています。
その歴史的な先駆者としてメアリー・アディソン・ハミルトンの功績は多大ではないでしょうか。
悪を挫く!「税務調査・監査の先達」
フランクJ.ウィルソン(1887年〜1970年)
アメリカ合衆国内国歳入庁(日本の国税庁に相当)の職員Franc J. Wilsonは、シカゴマフィアの大物であるアル・カポネ(Al Capone)の逮捕で有名です。
シカゴのギャングであるアル・カポネは、禁酒時代にアメリカで密造酒販売、賭博、売春斡旋事業を拡大。犯罪組織を近代化、統合した歴史上有名なギャングの1人です。
アル・カポネはギャングのボスであるにもかかわらず、自身の銀行口座を持たず、小切手にもサインすることもない上、一度も納税申告書を提出したことがないという、鉄壁の用心のおかげで、長らく検挙されることはありませんでした。
ところが、悪事は長くは続かないもの。
フランク・J・ウィルソンが率いる内国歳入庁のチームは、200万件以上の財務記録を精査した上で、組員の出納係をおさえ、アル・カポネのビジネスと収入の全容を明るみにします。
監査・税務調査は執念が必要です。
この結果、アル・カポネは1931年の裁判で有罪が確定し、監獄行きとなります。ちなみに当時アメリカで最も過酷な刑務所であった、サンフランシスコ沖の孤島「アルカトラズ監獄」に収監されることとなり、刑期満了後も社会的に復活することなく、その生涯を終えます。
フランクJ.ウィルソンは税務調査官、監査人としての偉人であり、今日の調査・監査実務の重要な先例となったとのこと。
以上、歴史に登場する偉大な会計人を4人紹介しました。
歴史上の偉大な会計人たちが、経済史の発展に大きく貢献してきたことがわかります。
会計経理職に従事する現代の会計人としても、歴史に貢献するような革新的な仕事をしたいものですね。