アフターコロナ・ウィズコロナの時代における海外事業戦略

コロナウィルスの世界的な拡散が止まりません。

このような状況の下、経済界では、「アフターコロナ・ウィズコロナに備えろ」という議論が聞かれることになりました。

アフターコロナとは、コロナ前とコロナ後の世界は全く異なった価値観、風景となるため、今までの考え方を捨てて新しい時代に即したビジネスをしていかなければいけないということ。

ウィズコロナとは、新型コロナはしばらくくすぶり続けるため、断続的な事業自粛や、テレワークの継続など、新型コロナとともに事業を運営していかなければならないこと。

多くの企業にとっては試練の時かと思いますが、価値観が転換するような時期は、新しいビジネスが花開くタイミングでもあります。目下の苦境をなんとか乗り切ってアフターコロナに備えたいところです。

新型コロナの海外事業への影響

冷戦終結後30年近くの間、ひたすら拡大を続けてきたグローバリゼーションの波に乗り、多くの企業が海外進出を進めてきました。

この指数関数的に加熱していく国際化の状況の中で、コロナショックは、突然に歴史的とも言える急ブレーキをかけることになりました。

現在、各国で外出規制がひかれ、海外進出をしている全ての企業において海外事業の見直しが求められています。

時速120kmで走っていた車に急ブレーキがかけられれば、ハンドルを取られます。これと同様に、特急のスピードで走っていた事業が突然ブレーキをかけられる制御不能となる可能性があります。

新型コロナの収束が当面見込めない現時点においては、大企業からベンチャーに至るまで、海外事業戦略の見直しが迫られます。

本記事では、シンガポールを筆頭に東南アジア事業にフォーカスしたブログですので、今回は、アフターコロナ・ウィズコロナの時代において考えるうるアジアの海外事業戦略について考察してみたいと思います。

全体的な戦略

まずは海外事業に関する俯瞰的な全体戦略から考察してみたいと思います。この点、全体戦略は非常にシンプルで、①合理化、②撤退、③拡大だと考えます。

合理化

合理化は、現場維持を志向する戦略です。おそらくほぼ全ての企業が今回のような危機時においてまず考えるのが、海外事業の合理化です。

具体的には以下のような施策を行うことで、海外事業の存続可能性をギリギリまで高めていくことになります。

現場オペレーションの見直し

経済危機において最も大事なものは手元資金。まずは、業務オペレーションを見直して、キャッシュアウトを最小限に食い止めることが肝要です。

テレワークを実施することができる企業は、オフィスの解約やスペース縮小を検討できるかかもしれません。また、オペレーションのボリュームがコロナ前に戻ることが期待できないのであれば、人員数の見直しが必要です。

特に、駐在員。一人当たりコストの高い駐在員の人数を見直すことで、海外事業のオーバーヘッド(固定費)を削減する必要があります。

当面は、多くの国、産業において新型コロナの影響を見ながらゆっくりと平時体制に戻していくことが考えられますから、事業の拡大のために派遣されたような駐在員など、当面不要な人材については帰国させるべきではないでしょうか。

不採算事業の統廃合

そもそも、海外事業を軌道に載せるのはなかなか大変です。2018年に発表されているこちらのデータでは、海外事業の成功割合は31%程度との結果になっています。定量的な基準に基づいたものではなく、回答者のアンケート結果ですので、何を「成功」と定義するかにもよりますが、2016-2017年度という好況時に実施したアンケートでも大半の企業が海外事業を成功できていない考えていないことが浮き彫りになっています。

そのため、コロナ危機が海外不採算事業を統廃合のきっかけになるという企業も多く出てくると思われます。

海外事業について日本本社で検討する際にも、通常だと「統廃合すべき」ということを議題に挙げづらいと思われますが、「コロナの影響で仕方なく」ということで進めやすいのではないでしょうか。

各国における新型コロナ支援制度の有効活用

各国政府や地方自治体は、経済を安定させるため新型コロナに対する支援制度を発表しています。ダメージを軽減するためにも、利用できる制度については積極的に活用しましょう。

撤退

少し古いデータとなりますが、中小企業庁から公表された海外事業からの撤退理由のダントツ1位となっているのは、「環境変化等による販売不振」です。

中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査; 中小企業庁)

今回のコロナ騒動はまさしく特大級の「環境変化」であり、海外市場から撤退を検討する企業も多く出てくるのではないでしょうか。

ただし、留意すべき点は、撤退にもコストがかかる点、また、一度撤退をすると再度進出する際に再びコストと労力がかかる点です。

大局的には、今回のコロナ騒動が一過性のもので、再び国際化が進み始めるのか、または、今回のコロナ騒動は自由主義を前提とした平成型のグローバリゼーションに終わりを告げ、クローズド型の国家主義を前提とした、新しい制限されたグローバリゼーションの始まりかを見極める必要があります。

足元では、いち早くロックダウンを解除した中国において、抑えられていた消費熱の反動である「リベンジ消費」が起きているとの情報もあり、以外と経済の回復は早いかもしれません。

拡大

ピンチはチャンス。

このコロナ危機を逆手にとって攻め込むのが拡大戦略です。拡大の方法として有用と考えられるのが、まずはM&Aでしょう。

自社で全てやろうとすると時間とコストがかかってしまいますが、進出先国のローカル企業を買収することで時間を買うことができます。

特に、リーマンショック以降の上向き景気の中で、買収対象の企業価値(バリュエーション)は高くなっていましたが、今後、キャッシュフローの悪化のため、身売りを検討する海外企業も出てくるのは間違いありません。

安定した日系企業の傘下に入るのは悪くありません。今回のコロナ危機でも、医療系メーカーやIT関連の業界では、ほぼ影響を受けないどころか、追い風になった企業もあります。

手元資金に余裕がある企業にとってM&Aを利用した海外事業拡大戦略は今後のさらなる発展のためにも、有効な戦略であるはずです。

地理的戦略

脱中国

コロナ騒動で、中国へ過度な依存に対するリスクが顕在化しました。簡単に思いつくだけでも複数出てきます。


・統制国家ゆえの情報の不透明性

・プライバシーの軽視

・製造機能の停止

・サプライチェーンの分断


例えば、そのほとんどが中国において生産されているというマスクが、ドラッグストアやコンビニの店頭から消えて社会問題となった意味は大きいと思います。

自らの生命を守るのに必要なマスクの不足は中国依存の象徴として見られることになり、今後、中国事業はどちらかというとネガティブな捉えられ方をされる可能性が高いと言えます。

確かに中国には、巨大なマーケット、安価で大量な労働力、中級所得世帯の急激な増大、資源、テクノロジーの進展など、現代資本主義における魅力が詰まった国ではあります。

ところがその一方で、これらの魅力の陰に隠れて目を背けられていた中国の「負の側面」が改めて見直されていくのではないでしょうか。

その結果、日経企業の脱中国が進んでいくことが予想されます。

日本回帰

医療や防衛、高付加価値製品などの戦略製品については、今後製造拠点を日本に回帰させる動きが強まるのではないでしょうか。

前述のマスクの話もそうですが、国家リスク管理上、医療や防衛、高付加価値品など戦略物資については、ある一定量国内生産を残さないと、危機時に対応できない。

治療薬やワクチンが開発されるまではウィズコロナの時代を生きなければなりません。今後従来のように頻繁に海外拠点に出張に行くようなことは難しくなることが予想され、高度な技術的すり合わせやコミュニケーションが必要な重要な高付加価値製品については、本社からリーチできる距離で生産されることになりそうです。

また、ここ10年でアジアの人件費が急上昇しており、アジア諸国で生産するアドバンテージが薄れてきています。縫製やコモディティ製品の低付加価値製品の製造は以前アジアに残ることが想定されるが、高付加価値品については、本社からリーチできる距離で生産されると思われます。

拠点分散

日本回帰まではいかないにしても、複数の拠点に分散するという流れは間違いなくくると思われます。今回の危機は、感染力の強いウィルスのパンデミックということであっという間に世界中に波及してしまいましたが、それでも国によって深刻度や規制の強度は異なります。

今後も事業運営を脅かす様々な事象が発生するのは間違いなく、そのため、特に製造拠点を1箇所ではなく、複数カ国に展開することは、カントリーリスクを回避するためにも有効です。

 

オペレーション戦略

次は海外事業のオペレーションにおける戦略です。オペレーション戦略の基礎は、コロナ対策と同様に「接触回避」が基本になるのではないでしょうか。

駐在員削減とローカル化

従来の海外子会社ガバナンスは、日本人が現地に常駐することで、現地の社員や取引先とコミュニケーションを図り、現地の生の情報を入手するのが海外事業の王道でした。

今後は、従来のような日本人駐在員が足と口を使って海外子会社をマネジメントするやり方から、できるだけ日本からリモートで海外子会社マネジメントするやり方に移行するでしょう。

前述の全体戦略でも触れた通り、日本人駐在員の人数を合理化して固定費を削減し、ローカル人材を採用して、マネジメントの現地化を行うことが主流になるのではないでしょうか。そして、それでも自社で賄えきれないリソースについては、現地の日本人コンサルタントなど専門家に外注することが考えられます。

この場合、現地をコントロールする日本人がいなくなるので、ローカル人材がオペレーションを理解して一定の品質を担保できるようにSOP(Standard Operation Procedures:標準作業手順)を策定することや、日本本社の目が届かない不正を防止するための内部統制制度構築内部通報制度整備して、海外子会社のガバナンス力を向上させる必要があります。

デジタル・トランスフォーメーション(Digital transformation: DX)

海外子会社を日本からリモート管理するにあたり、企業のデジタル・トランスフォーメーションが必須となります。

デジタル・トランスフォーメーションとは、2018年に経産省から公表された「DX推進指標とそのガイダンス」において、以下のとおり定義しています。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や

社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

( 引用:DX推進指標とそのガイダンス; 経産省)

コロナ騒動以前より、日系企業のデジタル・トランスフォーメーションの必要性は声高に叫ばれていましたが、アフターコロナ /ウィズコロナの時代においては、今までのように物理的な移動や接触が制限されるようになるため、ますますDXの重要性が高まります。物理的移動や対面コミュニケーションの代替として、ますますデジタルに対応していくことが必要となるでしょう。

オペレーション戦略という観点からデジタル・トランスフォーメーションを考えた場合、①自社製品・サービスのDX、②オペレーションのDXの2つの視点が考えられます。

自社製品・サービスのDX

コロナ騒動下において、フィジカルに提供する製品やサービスがかなり被害を受けています。具体的には、飲食業や小売販売店、遊園施設やマッサージ店などの接触型エンターテインメントサービス業などです。

今後も断続的に営業自粛が求められる可能性があり、そのような状況においては、提供する製品やサービスを可能な限りデジタル化することが求められます。

例えば、レストランなどの飲食業を例に挙げると、お店での販売ではなく、自社HPからのインターネット販売とすることが考えられます。ただし、これはただHPを作って売ればいいという単純な話ではなく、お客様のもとに時間内に届くというサプライチェーンや売上代金を回収し、次の仕入に回すというマネーフローまで手当てしなければなりません。

エンターテイメント業についても、遊物理的な施設に人を集めて楽しませるというやり方に加えて、インターネットを通じたメディアミックスで稼ぐことで、収益源を分散化することが重要になりそうです。

また、フィンテックの技術革新により、金融関係についても店舗やATMをデジタルに代替する動きが加速する可能性が高いのではないでしょうか。

自社オペレーションのDX

自社製品・サービスのDXが外向けのトランスフォーメーションである一方、自社オペレーションは内向きのトランスフォーメンションです。

従来から、企業はITによる自動化を進めてきましたが、引き続き最新のテクノロジーを利用したオペレーションの変革が、競争優位の源泉となりえます。アフターコロナを見据えると、特に以下のシーンでDXを進めることが喫緊の課題と言えそうです。


  • リモートワーク環境の構築
  • セキュリティ
  • 定型オペレーションの自動化 (人事、財務、経理、総務機能)

まとめ

いかがでしょうか。アフターコロナ・ウィズコロナの時代における海外事業戦略という視点で考察してみました。生き残るためには、環境への適応が重要です。筆者個人も環境の変化に留意し、引き続き情報提供していきたいと思います。

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